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理事長挨拶

國土 典宏

国立国際医療研究センター(NCGM: National Center for Global health and Medicine)は国立高度専門医療研究センター(いわゆるナショナルセンター)の一つであり、明治元年(1868年)10月に江戸城山下門内に設置された兵隊仮病院にそのルーツを発し、2018年に創立150周年を迎えました。明治6年(1873年)に現在の千代田区隼町に移転し、陸軍本病院と名称も変更されました。その後も時代とともに東京陸軍病院、東京第一衛戍病院、東京第一陸軍病院と名称が変わり、昭和4年(1929年)に現在の新宿区戸山に移転しています。戦後は厚生省に移管され、国立東京第一病院として再出発し、長らく“東一”の名称で皆様に親しまれました。昭和49年(1974年)には国立病院医療センターとなり、平成5年(1993年)にナショナルセンターとして組織統合され国立国際医療センターとなりました。そして、平成27年(2015年)からは独立行政法人の一形態である国立研究開発法人に属し国立国際医療研究センター(NCGM)となりました。

現在NCGMは、センター病院、国府台病院(千葉県市川市)、研究所、臨床研究センター、国際医療協力局、国立看護大学校(東京都清瀬市)など多様な組織を有し、感染症・免疫疾患並びに糖尿病・代謝疾患等に関する研究や高度総合医療を提供するとともに、医療の分野における国際協力や医療従事者の人材育成を総合的に展開しています。

多様なNCGMのミッションをご理解いただくために、私共は3つのGでご説明しています。
最初のGはGlobal health contributionのGです。NCGMの国際医療協力は1980年代の南米ボリビアに始まり、アジアやアフリカを中心にのべ139カ国に5,200名を超える職員を派遣して参りました。また153カ国から8,700名を超える医療者の研修生を受け入れてきました。2000年代初頭、中国やベトナムのSARS流行制圧への支援などの医療協力だけでなく、各国の健康保険制度(UHC)、母子保健、医師や看護師の資格、研修制度、病院運営管理など医療政策全般に関わる支援を行っています。2018年5月にはコンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱のアウトブレイク対応のため、2021年から2022年には新型コロナウイルス感染症対応のためにフィリピンやPNGにも職員を派遣しました。2016年に発足したグローバルヘルス政策研究センター(磯 博康センター長)では、多角的な政策研究、科学的視点からの政策提言、人材育成などを活発に行っています。また、国立看護大学校では国際感覚豊かな看護師を養成し、卒業生の約9割がNCGMを含む6つのナショナルセンターに入職し活躍しています。

二つ目のGはGrand general hospital総合病院のGです。NCGMにとって新型コロナウイルス感染症、エイズや肝炎などの感染症・免疫疾患、糖尿病・代謝疾患、児童精神医療等は重点分野ですが、がんや脳卒中をはじめ高齢化が進む我が国のすべての疾患や病態に対応できる総合病院として機能しています。新型コロナウイルス感染症対応においては主に中等症・重症患者を1,790名(のべ23,211人:2022年7月末現在)受け入れましたが、この総合病院機能が重要な役割を果たしました。また、センター病院の救急車の受け入れ数は全国トップクラス(東京都で第一位:2021年データ)であり、新宿区を中心とする地域医療の担い手ともなっています。特に新型コロナ流行の第5波、6波、そして7波では近隣の高次救命救急センターの一部が受け入れ困難になる中でセンター病院は多くの新型コロナとそれ以外の疾患の救急患者を受け入れてきました。

三つ目のGはGateway to the Precision MedicineのGで、最近話題となっているゲノム医療、AIを活用した医療など個別化医療、高度先進医療の研究拠点になることを目指しています。NCGM研究所では世界で初めてエイズ特効薬を開発した満屋裕明研究所長の指導の下、エイズや肝炎新薬の開発、1型糖尿病に対する膵島移植、マラリアなどの熱帯病の診断や治療法の開発など、臨床に直結した研究・開発を行っています。新型コロナウイルスに関する研究では河岡義裕博士が国際ウイルス感染症研究センター長として着任し、オミクロン株に対するワクチンや抗ウイルス薬の効果など最新のデータをいち早く発信しています。ゲノム医学では徳永勝士博士、溝上雅史博士の二人のゲノム医学プロジェクト長のリーダーシップの下、バイオバンクを充実させ、難病ゲノムの研究拠点を形成しています。また、病院では膵島移植の他に、蛍光イメージング技術を駆使したがん手術、喘息に対する気管支サーモプラスティ治療、スーパーマイクロサージェリー技術を応用したリンパ浮腫手術、腹膜偽粘液腫に対する完全減量手術など多くの先駆的な医療を展開しています。

2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症流行に対しては感染症危機に対応するナショナルセンターとしてNCGMは組織の全力を挙げて取り組んできました。2020年1月末の武漢帰国者のPCR検査に始まり、横浜のクルーズ船クラスター対応の支援と感染者へのレムデシビルの人道的使用、米国NIHとの共同研究をはじめとする新薬の基礎研究と回復者血漿療法などの臨床試験や重症者の高度医療、血中サイトカインや尿中物質に注目した重症化予測、発熱外来とそれに続く新宿区PCR検査スポットの開設、ホテル滞在軽症者の支援、東京オリンピック・パラリンピック選手村濃厚接触者外来の運営、院内感染予防法や治療指針の公開・出版などと新型コロナ医療のすべての方向に広がっていきました。患者レジストリ(COVIREGI-JP)も流行早期から立ち上げ、これまで全国696施設から69,800例(2022年8月時点)の入院患者の臨床データを集積し、逐次情報を公開してきました。さらに2021年には患者とウイルスのサンプル・ゲノムデータを含めた新興・再興感染症データバンク事業(REBIND)を国立感染症研究所、東京大学医科学研究所、東北メディカル・メガバンク機構などと協力して立ち上げ運用を開始しました。病院部門ではまだ新型コロナウイルス感染症の流行の程度に合わせて柔軟に病棟運営を行い、新型コロナ以外の重要疾患症例の医療、特に救急医療も医療崩壊を防ぎながら担い、先述のように1,790名(のべ23,211人・日)の主に中等症・重症の患者を治療してきました。

2022年6月の閣議においてNCGMと国立感染症研究所の統合の方針が決定されました。統合の方法や時期についての詳細は現時点では未定ですが、私共NCGMは、国家戦略に基づく研究開発法人として明治、大正、昭和、平成から令和まで活動してきた歴史と伝統を受け継ぎ、時代の要請に適確に対応しながら、今後もその使命を果たしていく所存です。

令和4年(2022年)8月1日
国立研究開発法人
国立国際医療研究センター
理事長 國土 典宏