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“デルタ株・オミクロン株流行期の妊婦新型コロナ患者”実態解明
~デルタ期・妊娠中期以降・2回のワクチン接種が完了していない患者に中等症・重症の割合が多かった~

2022年9月26日

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)感染症科の庄司健介(医長)と国立国際医療研究センター(所在地:東京都新宿区戸山、理事長:國土典宏)国際感染症センター・AMR臨床リファレンスセンターの都築慎也(応用疫学研究室医長)らの研究チームは、デルタ株・オミクロン株流行期における妊婦の新型コロナウイルス感染症入院例の臨床的な特徴を分析した研究を発表しました。本研究は、国立国際医療研究センターが運営している国内最大の新型コロナウイルス感染症のレジストリ「COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP)」*1(主任研究者:大曲貴夫)を利用したもので、デルタ期・オミクロン期の日本の妊婦の特徴に関する貴重な報告となります。

本研究は、2021年8月から2022年3月までの間に登録された妊婦の新型コロナウイルス感染症入院例310人(デルタ期:111人、オミクロン期:199人)を対象に実施されました。オミクロン期の患者はデルタ期の患者に比べて鼻汁と咽頭痛が多く、倦怠感、嗅覚・味覚障害が少ない傾向にありました(図1)。また、多変量解析という手法を用いて、軽症の入院患者と、中等症-重症の入院患者の比較を行ったところ、中等症-重症に至った患者はデルタ期の患者、妊娠中期以降、ワクチン2回接種未完了の患者が多かったことが判明しました(表1)。
Fig_0.png

2つのナショナルセンターが連携して取り組んだ本研究結果は、日本感染症学会/日本化学療法学会の英文機関誌であるJournal of Infection and Chemotherapy (JIC)に公開されました。

*1 COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)
国立国際医療研究センター (NCGM) 大曲貴夫(国際感染症センター長)が主任研究者を務め、新型コロナウイルス感染症において重症化する患者の特徴や経過など、様々な点について明らかにすることを目的とした研究です。患者の生年月日や入退院日などの「基本情報」、症状や意識レベル、酸素療法の状況といった「臨床情報」など、様々な情報を集めており、新型コロナウイルス感染症関連のデータベース(レジストリ)としては国内最大のものです。

※本研究は、下記に注意が必要です。

  • オミクロン株の中で現在流行しているBA.5がまだ存在しなかった時期に実施されているためその影響は検討できていません。
  • 患者それぞれからデルタ株やオミクロン株が証明されているわけではなく、あくまでそれぞれの株が国内の主流であった時期の患者を比較した研究です。
  • 本レジストリに登録された患者は日本全体の患者の一部であり、すべての新型コロナウイルス感染症患者が登録されているわけではありません。
  • 中等症-重症の定義は本研究で定めた定義であり、国内で用いられている定義と完全に一致しているわけではありません。

プレスリリースのポイント

  • 2021年8月~2021年12月をデルタ株流行期、2022年1月~2021年3月をオミクロン株流行期として、妊婦の新型コロナ感染症入院患者を対象に検討を行いました。
  • オミクロン株流行期の妊婦新型コロナ入院患者(199名)の臨床症状は、デルタ株流行期(111名)と比較して鼻汁、咽頭痛が多く、倦怠感、嗅覚・味覚障害が少ないという結果でした(図1)。
  • 入院時に呼吸数が24回/分以上または酸素飽和度(SpO2)が94%以下、酸素投与/人工呼吸管理/ECMO/集中治療室の入院のいずれかを満たした場合を中等症-重症、そのいずれも満たさない場合を軽症と定義した場合、中等症-重症の患者ではデルタ期の患者、妊娠中期以降の患者、ワクチン2回接種が未完了の患者が多かったことが分かりました(表1)。

【表1】 妊婦COVID-19の中等症から重症例と、軽症例との比較
単変量解析
Fig_01.png

多変量解析
Fig_2.png

背景・目的

新型コロナウイルス感染症では、その時に流行している変異株の種類により、臨床症状や重症度などが異なることが知られていますが、これまで日本の妊婦におけるデルタ株とオミクロン株流行期の妊婦新型コロナウイルス感染症の臨床的特徴に関する情報は限られていました。
COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP) は日本最大の新型コロナウイルス感染症関連のレジストリです。今回COVIREGI-JPを利用して、妊婦の新型コロナ感染症入院患者における①デルタ株流行期とオミクロン株流行の臨床的特徴の違いを比較すること、②中等症-重症に至った患者の特徴を明らかにすること、の2つの目的についての検討を行いました。

研究概要・結果

研究対象

2021年8月~2022年3月の間にCOVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)に登録された妊婦新型コロナ感染症の入院患者。

研究方法

対象患者の患者背景、重症度、治療内容などのデータを集計・分析しました。デルタ株・オミクロン株流行期の臨床的特徴についての比較検討を行いました。また、軽症と中等症-重症の患者背景を多変量解析という手法を用いて中等症から重症に関連する要因を探索しました。

研究結果

  • 期間中に14,006人の患者情報が登録され、そのうち研究対象となった妊婦の入院患者は310人でした(無症状患者38名を除く)。そのうち、デルタ期の妊婦は111人、オミクロン期の妊婦は199人でした。
  • オミクロン期の患者は、デルタ期の患者に比べて鼻汁(26.1% vs 15.3%)、咽頭痛(52.8% vs 37.8%)が多く、倦怠感(29.6% vs 43.2%)、嗅覚障害(1.5% vs 18.9%)・味覚障害(2.5% vs 16.2%)が多いという結果でした(図1)。
  • 本研究の定義による中等症-重症患者と、軽症患者の多変量解析では、デルタ株流行期、妊娠中期以降のオッズ比*2(95%信頼区間)はそれぞれ2.25 (1.08-4.90、P=0.035)、2.08 (1.24-3.71、P=0.008)、とそれぞれ有意に中等症-重症と関連していることが分かりました。一方でワクチン2回接種完了はオッズ比(95%信頼区間)0.34 (0.13-0.84、P=0.021)と、中等症-重症となることを防ぐ方向に関連していることが分かりました(表1)。
  • 同様の検討をオミクロン株流行期の患者に限って実施したところ、ワクチン接種についてはオッズ比(95%信頼区間)0.40 (0.15-1.03、P=0.059)と有意差は認めませんでした。

*2 オッズ比が1とは、ある疾患への罹りやすさが両群でほぼ同じということであり、1より大きいとは、疾患への罹りやすさがある群でより高いことを意味します。オッズ比が2.25の場合、リスクが対象群に対して2倍程度高いこととなります。

今後の展望・発表者のコメント

今回の研究により、日本の妊婦新型コロナウイルス感染症のデルタ期とオミクロン期の臨床的特徴の違いが明らかとなったことは、今後の妊婦新型コロナ感染症の診断、治療、予防を考えていく上での重要な基礎データとなると考えられます。今回の検討でも明らかであったように、流行している変異株によりその臨床的特徴が変化していくため、今後も最新の情報を用いた解析を実施し、情報をアップデートしていくことが必要と考えられます。

発表論文情報

  • 和文タイトル:「デルタ株流行期とオミクロン株流行期における妊婦COVID-19入院例の臨床的特徴の比較」
  • 英文タイトル:「Comparison of clinical characteristics of COVID-19 in pregnant women between the Delta and Omicron variants of concern predominant periods」
  • 著者名: 庄司健介1、都築慎也2,3、秋山尚之2、松永展明2、浅井雄介2,3、鈴木節子3、岩元典子2,3、船木孝則1、山田全毅1,4、小澤伸晃5、山口晃史5、宮入烈1,6、大曲貴夫2, 3
  • 所属:
    1. 国立成育医療研究センター感染症科
    2. 国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター
    3. 国立国際医療研究センター国際感染症センター
    4. 国立成育医療研究センター高度感染症診断部
    5. 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター
    6. 浜松医科大学 小児科  
  • 掲載誌:Journal of Infection and Chemotherapy
    https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.09.005

特記事項

本研究は厚生労働科研費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(19HA1003)とREBIND projectにて実施されました。

お問い合わせ先

  • 本リリースに関する問い合わせ先
    国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
    企画戦略局 広報企画室 近藤・村上
    電話:03-3416-0181(代表)E-mail: koho@ncchd.go.jp  
  • COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP)に関する問い合わせ先
    国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)
    企画戦略局 広報企画室 西澤
    TEL:03-3202-7181(代表)内線:5097  ※9:00~17:00(平日のみ)
    E-mail:press@hosp.ncgm.go.jp