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小児コロナ入院患者における症状などを“デルタ株流行期”と“オミクロン株流行期”で比較
~オミクロン株流行期は“けいれん”が多く、ワクチン接種済みの患者で重症化した患者はいなかった~

2022年8月12日

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

 

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区、理事長:五十嵐隆)感染症科の庄司健介(医長)は、国立国際医療研究センター(所在地:東京都新宿区、理事長:國土典宏)AMR臨床リファレンスセンターの秋山尚之主任研究員らの研究チームと合同で、オミクロン株流行期における小児新型コロナウイルス感染症による入院例の疫学的・臨床的な特徴を、デルタ株流行期と比較検討しました。これは、国立国際医療研究センター(主任研究者:大曲貴夫)が運営している国内最大の新型コロナウイルス感染症のレジストリ「COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP)」*1を利用したもので、日本における小児新型コロナウイルス感染症患者の特徴を、オミクロン株流行期とそれ以前とで比較した大規模な研究は今回が初めてです。

本研究は、2021年8月~2021年12月までをデルタ株流行期、2022年1月~3月までをオミクロン株流行期とし、それぞれの期間に登録された18歳未満の小児新型コロナウイルス感染症入院例847人(デルタ株流行期:458人、オミクロン株流行期:389人)を対象に実施しました。その結果、オミクロン株流行期は、デルタ株流行期に比べて2~12歳の患者で発熱やけいれんが、また、13歳以上の患者で咽頭痛が有意に多かったことが分かりました。一方で、6歳以上の患者の嗅覚・味覚障害はオミクロン株流行期には少なかったことも分かりました。また、新型コロナウイルスワクチンの接種歴の有無が入力されていた790名に着目してみると、酸素投与・集中治療室入院・人工呼吸管理などのいずれかを要した“より重症と考えられる患者”43名は、いずれも新型コロナウイルスワクチン2回接種を受けていませんでした。これは、ワクチン接種が子ども達を重症化から守る方向に働いている可能性があることを示唆していると考えられます。

2つのナショナルセンター*2が連携して取り組んだ本研究結果は、日本感染症学会/日本化学療法学会の英文機関誌であるJournal of Infection and Chemotherapy (JIC)に公開されました。

※本研究は、オミクロン株の中で現在流行しているBA.5がまだ存在しなかった時期に実施されているためその影響は検討できていないこと、患者それぞれからデルタ株やオミクロン株が証明されているわけではなく、あくまでそれぞれの株が国内の主流であった時期の患者を比較した研究であること、ワクチン接種を実施されていた患者がまだ少数にとどまっており、その解釈には注意が必要であること、本レジストリに登録された患者は日本全体の患者の一部であり、すべての新型コロナウイルス感染症患者が登録されているわけではないことなどに注意が必要です。

*1 COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)
国立国際医療研究センター (NCGM) 大曲貴夫(国際感染症センター長)が主任研究者を務め、新型コロナウイルス感染症において重症化する患者の特徴や経過など、様々な点について明らかにすることを目的とした研究です。患者の生年月日や入退院日などの「基本情報」、症状や意識レベル、酸素療法の状況といった「臨床情報」など、様々な情報を集めており、新型コロナウイルス感染症関連のデータベース(レジストリ)としては国内最大のものです。

*2 ナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)
高度先駆的医療の研究・開発・普及、医療従事者の研修および、情報発信等を総合的・一体的に行うための中核的な機関です。国立がん研究センター、 国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センターの6つがあります。

プレスリリースのポイント

  • オミクロン株流行期(2022年1月~3月)の小児新型コロナウイルス感染症患者は、デルタ株流行期(2021年8月~2021年12月)と比較して2~12歳では発熱、けいれんを来す患者が多い、13歳以上では咽頭痛を来す患者が多い、6歳以上の患者では嗅覚・味覚障害を来す患者が少ない、などの特徴を認めました。(表1)
  • オミクロン株流行期は、教育関連施設での感染が考えられる症例がデルタ株流行期より多くありました。(表2)
  • 新型コロナワクチン接種歴に着目してみると、酸素投与・集中治療室入院・人工呼吸管理などのいずれかを要したより重症と考えられる患者で、新型コロナワクチンの2回接種を受けていた方はいませんでした。
  • 本研究結果は、今後の小児への新型コロウイルス感染症の対応を考えていく上で貴重な基礎資料となると考えられます。

【表1:各流行期における症状の比較】

 202208_table_1.png
※赤字は統計学的に有意差があった項目です。
※N/A:not applicable


背景・目的

新型コロナウイルス感染症の第6波では、感染力が強いとされるオミクロン株が流行し、小児患者数が増加しました。しかし、日本におけるオミクロン株流行期の小児新型コロナウイルス感染症の臨床的特徴についての情報は限られ、その解明が求められていました。

研究概要・結果

研究対象

2021年8月~2021年12月(デルタ株流行期)と2022年1月~3月(オミクロン株流行期)の間にCOVID-19 Registry Japan*1に登録された18歳未満の新型コロナ患者を対象としました。

研究方法

COVID-19 Registry Japanに登録されている、患者の背景や臨床経過、ワクチン接種歴、予後などのデータを集計・分析しました。

研究結果

  • 期間中に研究対象となった18歳未満の患者はデルタ株流行期458名、オミクロン株流行期389名でした。
  • 入院患者の年齢の中央値はデルタ株流行期が8歳、オミクロン株流行期が6歳でした。オミクロン株流行期の方が若年化している傾向にあります。(表2)
  • オミクロン株流行期は、デルタ株流行期に比べて2~12歳の患者で発熱やけいれんが、13歳以上の患者では咽頭痛が有意に多くありました。一方で、6歳以上の患者の嗅覚・味覚障害はオミクロン株流行期に少なかったことも分かりました。(表1)
  • 酸素投与を要した患者はオミクロン株流行期に多かったですが、人工呼吸管理や集中治療室入院を要した患者の数、割合には大きな変化はありませんでした。(表3)
  • 新型コロナワクチン2回接種を終えていた患者は、研究対象847名のうち50名(9%)でした(接種の有無が不明であった患者は57名いました)。この50人は、いずれも軽症でした。
  • ワクチン接種歴の有無が判明していた790名の中で、酸素投与、集中治療室入院、人工呼吸管理のいずれかを要したより重症と考えられる患者43名のうち、新型コロナワクチン2回接種を受けていた患者は0人でした。

【表2:患者背景】
202208_table_2.png

【表3:重症度に関する比較】
202208_table_3.png
※赤字は統計学的に有意差があった項目です。
※N/A:not applicable


今後の展望・発表者のコメント

今回の研究により、日本の小児新型コロナウイルス感染症の入院症例の実態がオミクロン株流行期にどのように変化したのかが明らかになりました。発熱やけいれんが増えていたことは、小児新型コロナウイルス感染症の診断を考える上で重要な情報と考えられます。また小児新型コロナワクチン接種者自体が少ない時期の研究なので限界はありますが、ワクチン接種が子ども達を新型コロナウイルス感染症の重症化から守る方向に働いている可能性を示唆している結果であったことは重要な結果と考えられます。小児新型コロナウイルス感染症の特徴はその時に流行している変異株により変化しうるので、引き続き情報の収集、解析を続けていくことが重要であると考えられます。

発表論文情報

  • 和文タイトル:「小児COVID-19入院例の臨床的特徴についてのデルタ株流行期とオミクロン株流行期での比較」
  • 英文タイトル:「Clinical characteristics of COVID-19 in hospitalized children during the Omicron variant predominant period」
  • 著者名: 庄司健介1、秋山尚之2、都築慎也2,3、松永展明2、浅井雄介2,3、鈴木節子3、岩元典子2,3、船木孝則1、大曲貴夫2, 3
  • 所属:
    1. 国立成育医療研究センター感染症科
    2. 国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター
    3. 国立国際医療研究センター国際感染症センター
     
  • 掲載誌:Journal of Infection and Chemotherapy
    https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.08.004

特記事項

本研究は厚生労働科研費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(19HA1003)とREBIND projectにて実施されました。

お問い合わせ先

  • 本リリースに関する問い合わせ先
    国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
    企画戦略局 広報企画室 近藤・村上
    電話:03-3416-0181(代表)E-mail: koho@ncchd.go.jp  
  • COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP)に関する問い合わせ先
    国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)
    企画戦略局 広報企画室 西澤
    TEL:03-3202-7181(代表)内線:5097  ※9:00~17:00(平日のみ)
    Eメール:press@hosp.ncgm.go.jp