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新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子に関する報告
・女性ほど倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、味覚障害が遷延しやすい
・若年者、やせ型であるほど味覚・嗅覚障害が出現しやすい
2021年10月8日
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
研究成果のポイント
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)国際感染症センターは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の遷延症状に関して、長期的な疫学的情報に加え、遷延症状が出現・遷延するリスクを同定するために、COVID-19罹患後の患者を対象としてアンケート調査を実施し、457名から回答を得ました。回答者の多く(84.4%)は軽症者(酸素投与を必要としない患者)でした。女性の方が倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、若年者ほど味覚嗅覚障害が出現しやすいことが明らかになりました。約4人に1人が罹患後半年経過した後も何らかの遷延症状を呈していることや、軽症者であっても遷延症状が長引く人がいることがわかりました。また、さらなる研究が必要ですが、2回のコロナワクチン接種は、COVID-19遷延症状を予防する観点からも有用な可能性があると考えられます。
背 景
これまで、国内外の報告からCOVID-19に遷延症状があることが確認されてきました(1)。国内の複数の調査(厚生労働科学特別研究事業)では、中等症以上の患者512 名において、退院後3カ月の時点で肺機能低下(特に肺拡散能)が遷延していました。また、軽症者を含む525 名において、診断後6カ月の時点で約80% は罹患前の健康状態に戻ったと自覚していましたが、一部の症状が遷延すると生活の質の低下、不安や抑うつ、睡眠障害の傾向が強まることがわかりました。嗅覚・味覚障害を認めた119 名において、退院後1カ月までの改善率は嗅覚障害60%、味覚障害84% でした(2)。罹患後半年以上追跡した疫学調査報告や遷延症状が出現するリスクの調査は少なく(3)、また、遷延のリスク因子に関する報告はこれまでにありませんでした。
概 要
研究名
新型コロナウイルス感染症の遷延症状出現と遷延リスク因子
(Risk factors associated with development and persistence of long COVID)
方 法
2020年2月から2021年3月までに国立国際医療研究センター病院のCOVID-19回復者血漿事業スクリーニングに参加した患者を対象として、アンケート調査を行いました。調査項目は、患者背景、COVID-19急性期の重症度や治療内容、遷延症状の各症状の有無とその遷延期間でした。
症状の出現頻度や遷延期間から、各症状を①急性期症状、②急性期から遷延する症状、③回復後に出現する症状の3つに分類しました。また、遷延症状である②と③に関して、症状の出現リスク、症状が出現した患者における遷延リスクを探索的に調査しました。
結 果
526名の対象者のうち、457名から回答を得ました(回収率86.9%)。回答者の年齢の中央値は47歳、231名(50.5%)が女性、何らかの基礎疾患を有したのは212名(46.4%)、欠損値9名を除いた448名のうち、重症度は軽症が378名(84.4%)、中等症が57名(12.7%)、重症が13名(2.9%)でした。また、発症日からアンケート調査日までの期間の中央値は248.5日でした。
COVID-19の各症状は、①急性期症状:発熱、頭痛、食欲低下、関節痛、咽頭痛、筋肉痛、下痢、喀痰、②急性期から遷延する症状:倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、咳嗽、呼吸困難、③回復後に出現する症状:脱毛、集中力低下、記銘力障害、うつに分類されました。②と③に関して、発症時もしくは診断時からの日数と各症状を有する患者の割合を図1、図2に示します。図3は発症時もしくは診断時からの日数と何らかの症状が残る患者の割合を表したものです。発症時もしくは診断時から6カ月経過時点で337名(73.7%)が無症状であり、120名(26.3%)に何らかの症状を認めました。また、発症時もしくは診断時から12カ月経過時点で417名(91.2%)が無症状であり、40名(8.8%)に何らかの症状を認めました。
倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、脱毛に関して、その出現リスクと遷延リスクを解析しました。男性と比較して女性ほど倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、味覚障害が遷延しやすいことが分かりました。また、若年者、やせ型であるほど味覚・嗅覚障害が出現しやすいことが分かりました。抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療の有無と遷延症状の出現に関して、明確な相関はありませんでした。
コメント
これまでの報告(3,4)と同様に、女性の方が倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすいことが分かりました。また、味覚・嗅覚障害は若年者で多く、生活の質を著しく低下させる可能性がありました。約4人に1人(何らかの症状を認めた者/回答者=120名/457名(26.3%))が半年間たっても何らかの遷延症状を呈しており、軽症者であっても遷延症状が長引く人がいることが明らかになりました。最も重要な遷延症状の予防はCOVID-19に罹患しないことであり、基本的な感染対策が重要と考えられました。
また、今回の研究結果からは、抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療がCOVID-19遷延症状の出現予防に寄与しないことが分かりました。
なお、今回の研究では調査していないが、コロナワクチンを2回接種していた人は、COVID-19罹患後に症状が28日間以上遷延しにくく(5)、このことから、コロナワクチンは、発症予防や重症化予防だけではなく、遷延症状の出現予防にも寄与する可能性があることが報告されており、今後の重要な研究課題と考えられます。
本研究の限界としては、想起バイアス、アンケート調査であること主観的側面があること、対象者に偏りが生じうること、サンプル数に限界があること、アンケート調査時に症状を有している患者は症状の持続時間を過小評価している可能性があることなどが挙げられます。
参 照
(1) Miyazato Y, et al. Prolonged and Late-Onset Symptoms of Coronavirus Disease 2019. Open Forum Infect Dis.2020;7(11):ofaa507.
(2) 第39 回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料 2021.6.16.
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000798853.pdf(2021年10月6日アクセス).
(3)Huang C, et al. 6-month consequences of COVID-19 in patients discharged from hospital: a cohort study.
Lancet. 2021;397(10270):220-232.
(4)Carole HS, et al. Attributes and predictors of long COVID. Nature Medicine. 2021;27:626-631.
(5)Antonelli M, et al. Risk factors and disease profile of post-vaccination SARS-CoV-2 infection in UK users of the COVID Symptom Study app: a prospective, community-based, nested, case-control study. Lancet Infect Dis. 2021. https://doi.org/10.1016/ S1473-3099(21)00460-6(2021年10月2日アクセス).
特記事項
本研究結果は、medRxiv (https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.09.22.21263998v1#:~:text=Summary%20Our%20cross%2Dsectional%20questionnaire,from%20long%2Dterm%20residual%20symptoms.)に掲載されています。
プレスリリースに関するお問い合わせ先
《研究に関するお問合せ先》
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)
国際感染症センター 国際感染症対策室医長
担当:森岡 慎一郎
電話:03-3202-7181(内線 4657)
E-mail: shmorioka@hosp.ncgm.go.jp
〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1
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Eメール:press@hosp.ncgm.go.jp