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新型コロナウイルス、オミクロン変異株に感染した11例の臨床経過とウイルス排出期間に関する報告
・成人は全員がワクチン2回接種後であり、重症化した患者はいなかった。
・オミクロン変異株による感染では、2回のコロナワクチンが接種され症状が軽い場合であっても、ワクチンを接種せずに罹患した人と同じ程度の期間ウイルスの排出が続く可能性がある。

2022年1月5日

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

研究成果のポイント

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)は、オミクロン変異株が国内で最初に検出された患者を含めて、オミクロン変異株の流行初期から患者対応を行ってきました。そこで流行初期にNCGMに入院した11名の患者について、患者背景、ワクチン接種歴、症状、治療、ウイルスの排出期間などについてまとめました。小児を除いた10名に2回のワクチン接種歴があり、全員が海外からの帰国者でした。調査した時点では3名が無症状であり、肺炎または酸素治療が必要な患者はいませんでした。治療薬は1名にソトロビマブ(ゼビュディ)が投与されましたが、抗ウイルス薬やステロイドは用いられていません。ウイルス排出はRT-PCRのthreshold cycle(Ct)値で測定し、>30となるのに6.0日、>35に10.6日、>40に15.1日、>45に19.7日必要でした。

本報告の11名に重症患者はいませんでしたが、2回のコロナワクチンが接種され症状が軽い場合でもワクチンを接種せずに罹患した人と同じ程度の期間ウイルス排泄が続く可能性があるため、感染予防策は今後も重要であると考えられます。

背 景

2021年11月に南アフリカでオミクロン変異株が検出されたのち(1)、この変異株は急速に世界に広がりました。日本においても11月28日にナミビアからの帰国者が新型コロナウイルス陽性と診断され、その後オミクロン変異株と確定診断されています(2)。オミクロン変異株感染者の臨床経過やウイルス排出期間に関する情報はまだ限られているため本報告を作成しました。

概 要

  • 研究名:日本国内における流行初期のオミクロン変異株感染患者11例の報告(The first eleven cases of SARS-CoV-2 Omicron variant infection in Japan: a focus on viral dynamics)
  • 方 法:2021年11月から12月に国立国際医療研究センター病院に入院したオミクロン変異株感染患者を対象とし患者背景、渡航地域、ワクチン接種歴、画像所見、症状、治療、ウイルスの排出期間についてまとめました。RT-PCRにはXpert® Xpress SARS-CoV-2 (セフェイド)を用い、ウイルス排出は N2ターゲットに対するthreshold cycle(Ct)値で測定しました。

結 果

11名の年齢の中央値は39歳(範囲:1歳-64歳)、10名が男性でした。全員が海外からの帰国者であり、8名がアフリカ、1名が欧州、北アメリカ、ラテンアメリカからでした。小児を除いた10名(7名がモデルナ社、3名がファイザー社)に2回のワクチン接種歴がありましたが、3回目のブースター接種を完了した患者はいませんでした。基礎疾患を有したのは3名であり、高血圧が2名、高脂血症、糖尿病が1名でした。調査時は11名中3名が無症状であり、入院時に多く認めた症状としては発熱、咽頭痛(5名、46%)、咳嗽(4名、36%)がありました。酸素療法が必要な患者はいなかったため、抗ウイルス薬やステロイドはどの患者にも投与されていません。ただし、重症化リスクを有する1名に対してはソトロビマブ(ゼビュディ)が投与されています。

11名の患者から採取した鼻咽頭ぬぐい液57検体のCt値を解析したところ、> 30となるのに6.0日、>35に10.6日、>40に15.1日、>45に19.7日が必要でした(図1)。

図1:発症(診断)からの日数とCt値の推移
発症(診断)からの日数とCt値の推移

コメント

今回の研究では、米国からの報告(3)と同様に、日本国内の流行初期にオミクロン変異株に感染した患者はワクチン接種歴のある若年者で、軽症が多いという結果でした。また、ウイルスの量を示す一つの指標にPCRのthreshold cycle(Ct)値があります。今回の研究ではCt値が検出感度以下の>45になるのに19.7日、>35となるのに10.6日という結果でした。オミクロン変異株が流行する以前の研究ではCt >35となると新型コロナウイルスが検出される可能性が低くなると報告されています(4,5)。今回の研究ではCt値が35より大きくなるとなるのに10.6日かかっていましたが、これはワクチンを接種せずに罹患した人からウイルスが発症される期間とほぼ同じ期間です。よって今回の結果は、オミクロン変異株による感染では、2回のコロナワクチンが接種され症状が軽い場合であっても、ワクチンを接種せずに罹患した人と同じ程度の期間ウイルスの排出が続く可能性を示しています。よって感染予防策は今後も重要であると考えられます。

本研究の限界としては11例のまとめであるため偏りが生じうる点、Ct値はあくまでウイルス量の推定であり、Ct値とウイルス検出の相関については今後の調査が必要である点などが挙げられます。

参 照

(1)World Health Organization. Classification of Omicron (B1.1.529): SARS-CoV-2 Variant of Concern. https://www.who.int/news/item/26-11-2021-classification-of-omicron-(b.1.1.529)-sars-cov-2-variant-of-concern(2021年12月12日アクセス).

(2)Maruki T, et al. Two cases of breakthrough SARS-CoV-2 infections caused by the Omicron variant (B.1.1.529 lineage) in international travelers to Japan. Clin Infect Dis. 2022 Jan 3;ciab1072.

(3)Centers for Disease Control and Prevention COVID-19 Response Team. SARS-CoV-2 B.1.1.529 (Omicron) Variant-United States, December 1-8, 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70 (Early Release).
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7050e1.htm(2021年12月18日アクセス).

(4)Singanayagam A, et al. Duration of infectiousness and correlation with RT-PCR cycle threshold values in cases of COVID-19, England, January to May 2020. Euro Surveill. 2020; 25:2001483.

(5)Bullard J, et al. Predicting infectious severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 from diagnostic samples. Clin Infect Dis. 2020; 71:2663-666.

特記事項

本研究結果は、Global Health & Medicine誌に掲載されています。
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ghm/advpub/0/advpub_2021.01124/_article/-char/en

本件に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)
広報企画室 広報係長
担当:西澤 樹生(にしざわ たつき)
電話:03-3202-7181(内線:5097)<9:00~17:00>
E-mail: press@hosp.ncgm.go.jp 
〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1