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国内最大の新型コロナウイルス感染症レジストリを使ってデルタ株流行期の“小児コロナ患者”の実態を解明
~デルタ株流行期以前に比べ集中治療室入院が多かった~

2022年1月25日

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

報道関係 各位

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区、理事長:五十嵐隆)感染症科の庄司健介(医長)は、国立国際医療研究センター(略称:NCGM、所在地:東京都新宿区、理事長:國土典宏)の秋山尚之主任研究員らの研究チームと合同で、デルタ株流行期における小児新型コロナウイルス感染症による入院例の疫学的・臨床的な特徴を、デルタ株が流行する以前と比較検討しました。これは、国立国際医療研究センターが運営している国内最大の新型コロナウイルス感染症のレジストリ「COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP)」 *1(主任研究者:大曲貴夫)を利用したもので、日本における小児COVID-19患者の特徴を、デルタ株流行期とそれ以前とで比較した研究は、今回が初めてです。

本研究は、2020年10月から2021年5月までをデルタ株以前、2021年8月から10月までをデルタ株流行期とし、それぞれの期間に登録された18歳未満の小児新型コロナウイルス感染症入院例1,299人(デルタ株以前:950人、デルタ株流行期:349人)を対象に実施しました。その結果、デルタ株流行期は、デルタ株以前に比べて患者年齢が低いこと(中央値 7歳 vs 10歳)、基礎疾患のある患者の割合が高いこと(12.6% vs 7.4%)、集中治療室(ICU)入院を要した患者が多いこと(1.4% vs 0.1%)などが明らかとなりました。これらの分析結果は、小児の新型コロナウイルス感染症患者の絶対数が増えると集中治療を要する患者も増えることを示唆しており、オミクロン株が爆発的に流行している現在において、また今後日本の小児に対する新型コロナウイルス感染症対応を考える上で貴重な情報といえます。

国内最大の新型コロナウイルス感染症レジストリを使ってデルタ株流行期の“小児コロナ患者”の実態を解明

【表1:重症度の比較(全患者)】

2つのナショナルセンター*2連携して取り組んだ本研究結果は、日本感染症学会/日本化学療法学会の英文機関誌であるJournal of Infection and Chemotherapy (JIC)に公開されました。

※本研究は、オミクロン株がまだ存在しなかった時期に実施されているため、その影響は検討できていないこと、患者それぞれからデルタ株が証明されているわけではなく、あくまでデルタ株が国内の主流であった時期の患者とそれ以前の患者を比較した研究であること、それぞれの期間で入院適応が異なっている可能性があり、入院率の違いの解釈には注意が必要であること、COVIREGI-JPに登録された患者は日本全体の患者の一部であり、すべての新型コロナウイルス感染症患者が登録されているわけではないことなどに注意が必要です。

*1 COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)
国立国際医療研究センター (NCGM) 大曲貴夫(国際感染症センター長)が主任研究者を務め、新型コロナウイルス感染症において重症化する患者の特徴や経過など、様々な点について明らかにすることを目的とした研究です。患者の生年月日や入退院日などの「基本情報」、症状や意識レベル、酸素療法の状況といった「臨床情報」など、様々な情報を集めており、新型コロナウイルス感染症関連のデータベース(レジストリ)としては国内最大のものです。

*2 ナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)
高度先駆的医療の研究・開発・普及、医療従事者の研修および、情報発信等を総合的・一体的に行うための中核的な機関です。国立がん研究センター、 国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センターの6つがあります。


プレスリリースのポイント

  • 2020年10月~2021年5月(デルタ株以前)と比較し、2021年8月~10月(デルタ株流行期)に登録された小児の新型コロナウイルス感染症患者では集中治療室に入院した患者が多くみられました(デルタ株以前0.1%、デルタ株流行期1.4%)。
  • ICUに入院した患者の半数(3/6名)に基礎疾患(喘息または肥満など)を認めました。
  • それぞれの時期で入院適応が異なっていた可能性があり、集中治療室入院率の違いの解釈には注意が必要ですが、少なくとも小児の新型コロナウイルス感染症患者が増えると、集中治療を要するような患者も増えてしまうということはいえるかと思われます。
  • 一方で、COVIREGI-JPに登録された患者の中にはデルタ株流行期を含め、人工呼吸管理を要す患者、死亡した患者は認めませんでした。
  • 本研究結果は今後の小児への新型コロウイルス感染症の対応を考えていく上で貴重な基礎資料となると考えられます。

背景・目的

新型コロナウイルス感染症の第5波では、感染力が強いとされるデルタ株の流行もあり、小児患者数も増加しました。しかし、小児患者の臨床的特徴や重症度がデルタ株の流行により変化があったのか、どのような小児患者が重症化していたのかなどの情報は限られ、解明が求められていました。

研究概要・結果

研究対象

2020年10月~2021年5月(デルタ株以前)と2021年8月~10月(デルタ株流行期)の間にCOVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP) *1に登録された18歳未満の新型コロナ患者を対象としました。

研究方法

COVIREGI-JPに登録されている、患者の背景や臨床経過、予後などのデータを集計・分析しました。

研究結果

  • 期間中に研究対象となった18歳未満の患者はデルタ株以前950名、デルタ株流行期349名でした。(表1)
  • 入院患者の年齢の中央値はデルタ株以前が10歳、デルタ株流行期が7歳と、デルタ株流行期の方が若年化している傾向にありました。(表2)
  • 入院患者にしめる無症状の患者の割合はデルタ株以前が25.8%、デルタ株流行期が10.3%と、デルタ株流行期にはより症状のある患者が多く入院していたことがわかりました。(表1)
  • ICUに入院した患者の数と割合は、デルタ株以前1名(0.1%)、デルタ株流行期5名(1.4%)と、いずれもデルタ株流行期で高かったことがわかりました。(表1)症状があった患者に限って同様の解析を行ったところ、デルタ株以前1名(0.1%)、デルタ株流行期5名(1.6%)と患者全体での解析とほぼ同様の結果でした。
  • ICUに入院した患者のうち、半数(3/6名)は基礎疾患(喘息または肥満)のある患者でした。

国内最大の新型コロナウイルス感染症レジストリを使ってデルタ株流行期の“小児コロナ患者”の実態を解明
  【表2:患者背景】


今後の展望・発表者のコメント

今回の研究により、日本の小児新型コロナウイルス感染症の入院症例の実態がデルタ株流行の前後でどのように変化したのかが明らかになりました。今後、小児の入院適応やワクチン接種の対象などを考えていく上で、本研究の結果がその基礎データとして利用されることが期待されます。このように、その時に流行している株の違いや、その時の社会情勢、医療環境により新型コロナウイルス感染症入院例の疫学的、臨床的特徴が異なる可能性があるため、オミクロン株の与える影響など、引き続き検討していく必要があると考えられます。
本研究結果からは、小児の新型コロナウイルス感染症患者の絶対数が増えると、集中治療を要するような小児患者も増えることが予想され、オミクロン株が流行している現在においても、小児患者について注意深く診ていくことが求められます。

発表論文情報

  • 和文タイトル:「小児COVID-19入院例の臨床的特徴についてのデルタ株流行前後での比較:COVID-19 Registry Japanからの報告」
  • 英文タイトル:「Comparison of clinical characteristics and outcomes of COVID-19 in children before and after the emergence of Delta variant of concern in Japan」」
  • 著者: 庄司健介1、秋山尚之2、都築慎也2,3、松永展明2、浅井雄介2、鈴木節子3、岩元典子3、船木孝則1、大曲貴夫2, 3
  • 所属:
    1. 国立成育医療研究センター感染症科
    2. 国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター
    3. 国立国際医療研究センター国際感染症センター
     
  • 掲載誌:Journal of Infection and Chemotherapy
    https://www.jiac-j.com/article/S1341-321X(22)00022-8/fulltext
    DOI:https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.01.009

特記事項

本研究は厚生労働科研費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(19HA1003)にて実施されました。

お問い合わせ先

  • 本リリースに関する問い合わせ先
    国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
    企画戦略局 広報企画室 近藤・村上
    電話:03-3416-0181(代表)E-mail: koho@ncchd.go.jp  
  • COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP)に関する問い合わせ先
    国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)
    企画戦略局 広報企画室 西澤
    TEL:03-3202-7181(代表)内線:5097  ※9:00~17:00(平日のみ)
    Eメール:press@hosp.ncgm.go.jp