メタボリックシンドローム情報
メタボリックシンドロームの日本における診断基準が示されてから、3年余りが経過しました。テレビなどのメディアによって「メタボ体型」という言葉が定着しましたね。世界でもっとも権威のある医学雑誌のひとつ、LANCETにおいては2007年には日本の肥満への取り組みが紹介されました(Lancet
2007; 369: 451)。
メタボリックシンドロームにはこれまでさまざまな診断基準が提案され、そしてその妥当性について多くの検証がなされています。
現在の基準が実際どれくらいの冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)を予見するもので、どのようにしてハイリスクな人々に生活習慣の介入をしていけば国民の健康増進に役立つのか、まだまだ研究が必要ですが、ここまで得られている知見や日本の取り組みについて、以下で簡単にご紹介したいと思います。
これまで提案されてきたメタボリックシンドローム=危険因子の重積によって心血管疾患を発症しやすい状態 の診断基準は
@特定の危険因子を必須項目とする基準(WHO基準、IDF基準など)
Aおのおのの危険因子を等価とみなし、必須項目を設けない基準(ATPIII基準、AHA基準)
とに大きく分かれています(Chien K-Lら、Atherosclerosis 2007)。
米国心臓病学会による基準が2005年後半に示されました(AHA/NHLBI基準、Circulation 2005; 112: 2735)。これは肥満という危険因子を必須の要素とはせず、内臓肥満(ウエスト周囲径↑)・高中性脂肪血症・低HDLコレステロール血症・血圧上昇・空腹時高血糖(100
mg/dl以上)のそれぞれを等価とみなし、5つのうち3つ以上の重積をもってメタボリックシンドロームと定義しています。
国際糖尿病連合(IDF)の基準は内臓肥満を必須の要素としていたのと異なっているわけです。
上記のようにこの問題は世界中で議論の的となっています。日本では、「2型糖尿病患者にウエスト周囲径の基準を必須項目として用いた場合、実際の冠動脈疾患ハイリスク群を少なく見積もってしまってしまう」とする研究結果(曽根ら)や、地域住民健診受診者を対象とした横断研究では、スクリーニング基準として「ウエストの基準を女性においては80cmにすべきだ」といった研究結果(原・松下ら)がでています。
同じアジア圏内では、シンガポールにおいて行われた4334人を対象とするコホート研究において、ウエストの基準を必須とした場合にやはりハイリスク群を少なく見積もってしまい(有病率が低くなる)、必須としないほうがよいのではという論文が出ています。
さて、男性より女性のウエスト基準が高い、すなわち女性に「甘い」基準を呈示しているのが日本の特徴で、本当にそれでいいのかなという疑問をもたれる方が多いと思います。日本人女性は世界で最も長寿であるわけで、冠動脈疾患には比較的罹りにくいということかもしれません。日本では内臓脂肪の量をCTで測定した結果に基づいて基準を作ったわけですが、実際問題として日本人女性を十分に代表するだけのデータ集積には時間が必要とも考えられます。
ここで、日系米国人の研究で知られるFujimoto教授のグループが日系米国人で内臓脂肪面積を測定して、内臓肥満以外のリスク重積を調べた興味深い結果が2007年1月に発表されました。この研究では年齢で二つの群に分けており、56歳以下の女性では80.8cm、それより高い年齢の女性では89.0cmが最適なウエストの基準値になったと述べています。環境が異なるとはいえ同じ日本人のDNAをもつ集団の研究であると同時に、年齢の影響(特に女性では閉経の影響を考慮する必要があると言う意見は他にもあります)を考慮したデータです。
これらを見ますと、まだまだ日本国内で多くの議論、データの蓄積が必要ではないかと言う気がします。
2008年度からこれまでと違った形の健康診断とそれに連動した特定保健指導というものがはじまりました。この特徴とは、「メタボ」体型にまず着目して生活習慣病の予備群の段階からしっかりとした生活習慣指導を積極的に行うこと、それだけでなく、実際に有病者・予備群を減少させるという結果を出さなければならないということになりました。ある年齢のかたで所見があった場合、その程度に応じて保健指導を「情報提供のみ」「動機付け支援」「積極的支援」に分けて具体的に生活習慣を改善するためのプログラムに参加していただくことになります。そのおおもとになるのが「ウエストの計測」によってメタボ体型かそうでないかを判定することになります。メタボリックシンドロームであるひとだけでなく、その予備段階のひとつまりウエストの基準は満たすがそれ以外の基準を2つまでは満たしていない人でも「がんばりなさい」ということになります。
また、特に注目していただきたいのは予備群段階から対象にするのに、血糖値の基準を空腹時100mg/dlにした点です。米国などでは2003年に血糖の基準を正常は空腹時 100 mg/dl未満と定めました。日本でも2007年4月に厚生労働省が特定健診における正常血糖の基準を100mg/dl未満とし、2008年日本糖尿病学会も空腹時血糖100〜109mg/dlを正常高値と定めました。2008年の健診からは指導の対象となる血糖の基準が100 mg/dl以上と厳しくなるということになりました。
冠動脈疾患の危険が増加するのはブドウ糖負荷試験2時間血糖が140mg/dl以上からというのが世界の共通認識といってよいと思いますが、それに相当する日本人の空腹時血糖がどれくらいであるかが検討された結果であるようです。空腹時血糖100 mg/dl以上ということとブドウ糖負荷試験2時間血糖140 mg/dl以上ということがまったく同じ意義をもつというわけではなく、繰り返しますが後者の方がよい指標だというのが一般的です。しかしながら、空腹時血糖100mg/dl以上ということにほかの臨床所見つまり肥満や高血圧、脂質異常症などを加えることによってブドウ糖負荷試験2時間血糖140 mg/dl以上に匹敵する意義をもつという研究結果が複数出されています。すなわち「メタボ」に注目することによって、糖尿病や心筋梗塞を発症する危険の高い人を、ブドウ糖負荷をしないでスクリーニングできるということが期待されています。
| 追加情報2 |
| 小児科領域におけるメタボリックシンドローム:日本の診断基準案について |
小児の肥満も世界的な問題となっており、国際糖尿病連合(IDF)が小児科領域について診断基準を提案しております。日本においても、厚生労働省研究班が
1)小児肥満が成人肥満に移行する場合が多く、将来の2型糖尿病・心血管疾患のリスクになると考えられること
2)小児肥満においてすでに高血圧・脂質異常・高尿酸血症など異常所見を認めること
などから、小中学生期におけるメタボリックシンドロームの診断基準を提唱しました。それは以下のようなものです。
| 小中学生期におけるメタボリックシンドロームの診断基準(1)必須項目 |
| 腹囲 | 中学生80センチ以上、小学生75センチ以上
もしくは、腹囲(センチ)÷身長(センチ)=0.5以上 |
| 小中学生期におけるメタボリックシンドロームの診断基準(2)追加項目 |
| 脂質代謝異常 |
トリグリセリド(中性脂肪)≧ 120mg/dl
かつ/または
HDLコレステロール < 40mg/dl |
| 高血圧 |
収縮期血圧 ≧ 125mmHg
かつ/または
拡張期血圧 ≧ 70mmHg |
| 耐糖能異常(空腹時高血糖) |
空腹時血糖 ≧ 100mg/dl |
(1)は必須 (2)のうち少なくとも2項目をみたすこと
(厚生労働省研究班:主任研究者大関武彦浜松医科大学小児科学教授による)
この診断基準が国際糖尿病連合の基準と比較して特徴的なのは
1)ウエスト周囲径に固定した値を導入していること
2)それ以外に腹囲身長比を導入していること
3)中性脂肪、血圧、血糖の基準が(日本の)成人よりも厳しく設定されていることです。
成長発達途上にある子供たちに固定したウエストの値を必須項目とすることや、メタボリックシンドロームと診断することがいじめの原因にならないか など、批判的な意見があるのも事実です。今後慎重な検証が必要でしょう。
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