研究所では、国民の安全と健康の確保を目的に、ヒト新型インフルエンザ、SARS、腸管出血性大腸菌O157、HIVといった新興感染症、マラリアや結核などの再興感染症、さらに多剤耐性緑膿菌のような院内感染症起因菌に関する総合的な臨床研究を実施しています。そのために、国立国際医療研究センター病院、国際疾病センターや国際医療協力局などのセンター内の組織や国立感染症研究所等の機関と協力した体制を構築して、総合的臨床研究を進めています。

・新興・再興感染症の重症化機構の解析
・疫学調査
・迅速診断法の開発
・危機管理対策の対経済効果
・治療薬の開発 など

1.SARSウイルス感染阻止化合物の開発と応用

SARSウイルスの感染防御、感染後のSARS発症予防、さらにSARS発症後の重症化予防を目指して、2つの開発研究を実施しています。一つは、SARSウイルスに対するヒト型中和抗体の開発、他方は、海洋微生物からの感染阻止因子化合物の探索です。

1-1.ヒト型抗SARS中和抗体の開発研究

ヒト型ウシを用いたSARSウイルス中和ヒト型抗体の開発を実施しています。ベトナムSARSウイルス感染回復患者からの血清中に3種類のエピトープ特異的抗体を同定しました(Shichijo S et al.)。この情報をもとに、ペプチド、組換え蛋白質などを設計・作成し、ヒト型抗体産生マウス、ウサギ、野生型ウシへ免疫し、試験管内でSARSウイルスを中和する抗体を作成しました。さらに、ヒト型抗体産生ウシの免疫を開始します。得られたヒト型中和抗体の評価を行うために、サルのSARSウイルス感染実験を中国共同で実施します。(キリンビール医薬カンパニー、東京医科歯科大学、国立感染症研究所、久留米大学及び中国医学院との共同研究)


図1 中和抗体作成の戦略(Shichijo et al)

1-2.SARSウイルス感染阻止因子化合物の探索

海洋微生物からのSARSウイルスの細胞接着を阻害する化合物を同定し、感染阻害を可能にする医薬品開発を目指します。ウイルス感染に必須の分子であるS蛋白質とこれが結合する宿主側レセプターAngiotensin converting enzyme-2(以下ACE2)の結合システムを立ち上げ、SARSウイルスの細胞接着を阻害する化合物を同定し、感染阻害を可能にする医薬品の開発に供します。またACE-2側の領域でS蛋白質に結合するコアの部分を明らかにし、ビアコアを用いたHTSシステムの検討も開始します。(海洋微生物研究所、東京医科歯科大学、国立感染症研究所及び中国医学院との共同研究)


図2 SARSコロナウイルスに対する阻害因子をスクリーニングするためのアッセイシステム



2.SARS重症化機構の解明

ベトナムとの国際共同研究により、SARS発症者の発症、重症化に関連する遺伝要因の探索を行いました。その結果、アンジオテンシン変換酵素の挿入欠失多型、オリゴアデニル酸合成酵素の一塩基多型との関連が明らかになりました( Itoyama et al , Hamano et al )。後者に関しては、SARS感染者で、exon 3、intron 5 、exon 6の SNPs から形成されるA-A-A ハプロタイプ の頻度が低いことがわかりました。特に intron 5 の splice-acceptorsite のAアリルから生成されるp48 蛋白は、Bcl-2 homology domain 3を介したapoptosis 作用を通じて 、SARS-CoV 感染に抵抗性を示している可能性が考えられました。


図3 SARS感染抵抗性の機序



3.マラリアに関する臨床研究、流行対策研究

適正技術移転研究部では、世界の再興感染症の代表であるマラリアの制圧に関する臨床研究、流行対策研究を展開しています。流行地への旅行者へは、国際疾病センター渡航者外来で適切なマラリア予防相談ができるように、またマラリアに感染した帰国者に最良の治療法が提供できるように、情報の収集、調査、研究を進めています。また一方で、流行地の人々にマラリアの医療が届くための社会技術開発研究の成果の向上に努めています。


図4 マラリアを媒介するハマダラカ



4.病原性大腸菌0157感染症に対する新しい治療薬の開発

臨床薬理研究部では、病原性大腸菌O157感染症に対する新しい治療薬としてベロ毒素中和剤SUPER TWIG (1)6の開発を行い、SUPER TWIG (1)6がマウスの感染モデルにおいて、同菌の感染成立後に投与しても治療効果を示すことを明らかにしました(図5)。


図5 新規ベロ毒素中和剤SUPER TWIG (1)6の構造



5.HIV感染と発ガンとの関連に関する研究

エイズに伴って誘発される「発ガン」との関連性を明らかにすることも重要な課題です. 本研究所では、HIV-1ウイルス感染によりDNAが傷つくことを見いだしました。HIV-1に感染すると放射線を照射されたのと同様の状態が細胞内に誘導されます(図6)。この現象のウイルス感染における意義を明らかにしつつあります。



図6 HIV-1ウイルス感染によりDNAが傷つくことを見いだしました


図6の説明
1.HIV-1に感染すると放射線を照射されたのと同様の状態が細胞内に誘導されます。
2.この現象のウイルス感染における意義を明らかにしつつあります。
3.エイズに伴って誘発される「発ガン」との関連性を明らかにすることも重要な課題です。


6.多剤耐性緑膿菌の新興

殆どの抗菌薬が効果を示さない高度多剤耐性緑膿菌が日本の医療現場で分離されるようになってきました。これまで緑膿菌は、環境からヒトへ伝播すると考えられていたが、多剤耐性緑膿菌は、ヒトからヒト、医療施設から医療施設へ伝播することが分子疫学調査から明らかとなりました。研究所では、新規の薬剤耐性遺伝子を同定するとともに、多剤耐性緑膿菌の簡便診断法の開発しました。これらの知見をもとに全国規模での疫学調査を開始しました。
(Sekiguchi et al: Antimicrob Agents Chemother. 49(9):3734-42,2005)


図7 新規アミノグリコシド耐性遺伝子を持った多剤耐性緑膿菌の多発事例解析


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