通常の放射線治療では、体の外側から放射線治療を行うので外部照射と呼ばれます。それに対して放射性イリジウムなどの放射線源を、腫瘍の中やその近くに刺入したり、挿入したりする治療を「腔内照射」「組織内照射」といいます。上咽頭がん、食道がん、胆管がん、子宮がんなどでは管腔臓器といわれる「つつ」の中にがんが発生します。そのような「つつ」の中に発生したがんに、放射線源を挿入する治療法が腔内照射です。

対して組織内照射は、管腔のないところに発生したがんの組織中に直接放射線源を刺入して治療します。

例えば舌がん、前立腺がん、乳がんなどです。腔内照射や組織内照射は、適切な局所麻酔や時によっては全身麻酔を用いて施行し、患者さんの苦痛が最小限になるように努力しております。

 

では、外部照射と腔内照射・組織内照射の違いは何なのでしょう。それは放射線の物理的な性質によります。ある放射線源周囲の放射線量は、放射線源からの距離の二乗に反比例します。例えば放射線源からの距離が1cmの場所の放射線量を100%とすると、2cmの場所では25%(4分の1)になります(減弱)。これを「放射線の逆二乗の法則」といいます。

 

外部照射の場合は、治療中心点はリニアック内部(前述に例えれば放射線源)から1m離れた場所です。ですから体内における1cmの違いは、放射線の分布にそれ程大きな影響を与えません。別の観点からいうと、腫瘍と正常組織が1cm程度しか離れていない場合は、腫瘍と正常組織に対して殆ど同じ放射線量が照射されてしまうのです。

腔内照射や組織内照射では腫瘍の中に放射線源が挿入されるため、放射線源の周囲にがんが取り巻くように位置することになり、さらに数cm離れたところは正常組織になります。よって、腫瘍には多くの放射線が照射される(治療効果が高い)のに対して、正常組織の放射線量はほんのわずか(副作用は少ない)となります。

 

そのような放射線物理的優位性があるために外部照射と比較しても、患者さんにとってより大変な腔内照射や組織内照射が施行されているのです。この腔内照射や組織内照射により、外部照射ではとても治癒不可能であったがんが治癒できるようになってきました。以前これらの照射法では、私たち放射線治療医が放射線源を直接手にもって挿入したり刺入したりしていましたので、放射線治療医の被曝という点で問題がありました。現在では、まず患者さんの管腔内やがん病巣内に中空の管(アプリケータといいます)を挿入した後に放射線源を機械で自動的にアプリケータ内に挿入していく、遠隔後充填法(リモートアフターローディング法)を用いています。アプリケータ内を放射線源が目標位置へ動いたり止まったり、予定された治療計画に従った放射線の分布を作り出します。

腔内照射では、アプリケータは1回の放射線治療後すぐに抜いてしまいます。しかし、腔内照射を何回か繰り返して施行する必要がある場合は、その都度アプリケータを挿入して治療します。

組織内照射では、1回の治療後すぐにアプリケータを抜いてしまう場合と、1週間程度挿入した状態にする場合があります。アプリケータを挿入した状態で、1日2回程度放射線治療棟にお越しいただき、アプリケータ内に放射線源を挿入して治療いたします。それ以外は、一般病室でお過ごしいただくことが可能です。

腔内照射でも組織内照射でも、アプリケータ内に実際に放射線源が挿入され、治療が施行される時間は10分以内です。この放射線治療終了後、放射線源は体の中には残りませんのでご家族や付き添いの方への放射線被曝の心配は全くありません。

 

腔内照射の適応疾患

上咽頭がん、口腔がん、食道がん、胆管がん、子宮頸がん、子宮体がん、膣がんなど

組織内照射の適応疾患

舌がん、頬粘膜がん、口腔底がん、乳がん、皮膚がん、前立腺がん、子宮頸がん、外陰部がん、膣がん、陰茎がんなど

 

舌がんの患者さんに、顎の下からアプリケータを挿入しました。アフターローディング治療装置にアプリケータを装着しています。これからまさに治療装置から放射性のイリジウムが送りこまれるところです。治療が終了すれば放射性イリジウムは再び治療装置内に格納され患者さまは一般病棟にお帰りになれます。

 

舌の上にかかれた青いマークはがんの存在する領域です。もともとは、舌の下の口腔底と呼ばれる場所が原発部位でした。3番目の写真は、全身麻酔下でいよいよ組織内照射のアプリケータを顎の下から刺入しようとするところです。4番目の写真はアプリケータの刺入をすべて終了した写真です。麻酔が切れてからは、痛み止めを使いますのであまり痛くありません。この患者さんは非常に進行した口腔底がんでしたが、放射線治療後現在4年を経過していますが、まったく再発はありません。それどころか、普通に会話して食べることができます。

 

別の患者さんで同じく口腔底がんですが、左の写真が治療前、右が組織内照射終了後3年の写真です。まったく問題なく治癒しています。