「データマイニング手法を用いたC型慢性肝炎の病態解析と日常診療への応用」を武蔵野赤十字病院 消化器科部長 黒崎雅之先生におまとめいただきました。
2011年11月15日
データマイニングとは、大量のデータを網羅的に解析することで有用な知識を発掘(マイニング)する技術です。判別木解析は、データの組み合わせにより階層化して分析する手法で、データマイニング解析の代表的な解析手法です。
データマイニング(判別木解析)を肝疾患の病態解析に使用する場合には、まず臨床検査値、患者情報(身長、体重、年齢、性別など)、肝生検所見などのデータベースを作成します。このデータベースのなかから、調べたい事象(たとえば発癌のリスク、抗ウイルス療法の治療効果や副作用など)を最も効率よく判別する因子を専用のコンピューターソフトウエアを用いて探索します。判別因子が連続変数であった場合には、最適なカットオフ値も決定します。判別因子が決まると症例は2つのグループに分割されますが、さらに分割されたそれぞれのグループに対して同様の探索を繰り返し、それ以上有意な判別因子がなくなるまでこのプロセスを反復します。細かく分割しすぎると、別の症例にあてはめる際の再現性が損なわれるため、症例が一定数以下になると分岐が自動的に止まるように設定します。この解析の結果、症例はフローチャートのような枝分かれした構造(判別木)に分類されてゆきます。通常は、解析対象症例をモデル作成群と検証群にランダムに振り分け、モデル作成群のデータで解析を行なった結果を検証群の症例をあてはめて、モデルの妥当性を確認します(内部検証)。さらに、全く別のコホートで再現性を確認することで、質の高い検証ができます(外部検証)。
結果の解釈に専門的な知識は必要ありません。症例のデータを当てはめて判別木をたどるだけで結果にたどりつくことができます。通常の統計解析よりも臨床での活用に適した解析といえます。
C型慢性肝炎は、肝硬変、肝細胞癌へと進展するリスクのある疾患です。肝硬変まで進展すると発癌率が年率5-8%と高いことが知られていますが、慢性肝炎の段階にある患者さんにおいて、発癌のリスクを正確に把握することは困難です。発癌のリスクを知ることは、肝細胞癌の画像スクリーニング計画を立てる上で重要な情報になります。インターフェロン治療によりウイルス学的著効(SVR)が得られれば発癌リスクが低下するため、発癌リスクの高い患者さんでは積極的に抗ウイルス治療を検討する必要がありますが、発癌リスクの程度が分かれば、将来の新規治療法を待たずに早急に治療を検討すべき患者さんを見分けることにも役立ちます。このように日常診療の中で、発癌のリスクを意識することは重要です。
Genotype 1型、高ウイルス量のC型慢性肝炎に対する標準的な治療は、48週間のペグインターフェロン・リバビリン併用療法ですが、SVRが得られるのは約50%にすぎません。高齢の女性ではSVR率が低いのは周知の事実ですが、60歳以上の女性でも20-30%の症例ではSVRが得られますし、また逆に治療効果が得られやすい若年の男性でもSVRが得られない症例が約30-40%存在します。このように年齢と性別による治療効果の予測には限界があります。実際の臨床の場では、個々の患者さんの状態に応じて、より精密に治療効果を予測して治療計画を立てる必要があります。次世代の抗ウイルス薬の登場により、C型肝炎の標準治療法は新規抗ウイルス薬・ペグインターフェロン・リバビリンの3剤併用療法に移行してゆきますが、副作用などの問題も勘案すると、今後も一定の患者さんは、ペグインターフェロン・リバビリンの2剤併用療法で治療することになります。
このような背景から、平成20年度に厚生労働省科学研究費補助金(肝炎等克服緊急対策研究事業)により「データマイニング手法を用いた効果的なC型肝炎治療法に関する研究(研究代表者:泉 並木)」研究班が組織されました(研究分担者、成蹊大学理工学部情報科学科 岩崎 学、東京医科歯科大学大学院分子肝炎制御学 柿沼 晴、武蔵野赤十字病院消化器科 黒崎雅之、山梨大学医学部付属肝疾患センター 坂本 穣、虎ノ門病院肝臓科 鈴木義之、大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科 田守昭博、大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 平松直樹、名古屋市立大学大学院臨床機能内科 松浦健太郎)。この研究班では、5年以上経過観察したC型慢性肝炎からの発癌に関わる因子をデータマイニング解析で分析し、簡単な臨床検査の組み合わせで、発癌リスクを予測するモデルを構築しました。また、genotype 1型、高ウイルス量のC型慢性肝炎に対してペグインターフェロン・リバビリン併用療法を施行した症例の臨床データをデータマイニングで分析し、治療開始前にSVRが得られる確率を予測するモデルを構築しました。C型肝炎ウイルス遺伝子変異は、治療効果と密接に関連しますが、肝臓非専門医が日常診療のなかで同検査を行うことは困難であるため、一般検査のみで治療効果を予測するモデルを作成し、肝臓に対する専門知識がなくても治療効果が得られやすい症例を簡単に見分ける方法を考案しました。また、一般臨床医から紹介を受けた肝臓専門医がウイルス遺伝子検査や肝生検を施行した結果をもとに、より精密に治療効果予測を行うためのモデルも作成しました。
ペグインターフェロン・リバビリン併用療法では、治療中にウイルスが消失しても、治療終了後にウイルスが再出現(再燃)する症例があります。12週以内にHCV RNAが消失する症例は極めてSVRになる可能性が高いのですが、約30%の症例では再燃してしまいます。この再燃を防ぐ方策を検討するために、再燃を予測するモデルも作成しました。また、治療中断に至る副作用として頻度が多いのがリバビリンによる高度貧血です。したがって、治療中の高度貧血を予測するためのモデルも作成しました。ここでは、これらの予測モデルについて紹介します。
5年以上経過観察したC型慢性肝炎を対象とし、5年以内に発癌する確率を予測する因子を解析しました。日常診療で容易に使用できるモデルの作成を目指したため、肝組織所見は解析に含めませんでした。
データマイニング解析(図1)で発癌と関連する因子は年齢、血小板数、アルブミン値、AST値でした。60歳以上で、血小板数が15万未満、かつアルブミンが4.0g/dl未満の症例の発癌率が最も高く、5年発癌率が20.9%でした。これは、高齢で肝線維化が進行している症例の発癌率が高いことを反映していると考えられます。これらの症例では、しっかりとした肝細胞癌の画像サーベイランスが必要であり、また早急に抗ウイルス治療を検討する必要があります。次に発癌率が高いのは、60歳以上、血小板が15万未満で、アルブミン値は4.0g/dl以上あるものの、AST値が40IU/L以上の症例で、5年発癌率が7.3%でした。AST値が40IU/L未満では発癌率が0%でした。この結果は、肝炎の活動性が高い症例では発癌リスクが高いことを示しており、治療適応を検討する上で重要な情報と考えます。また、60歳以上で、血小板数が15万以上あっても、アルブミン値が3.75g/dl未満であれば5年発癌率は6.3%、アルブミン値が3.75g/dl以上であれば、5年発癌率は1.5%でした。血小板数とアルブミン値の組み合は、それぞれ単独よりも肝線維化の程度をより正確に反映することで、臨床的に発癌を判別する有用なマーカーになると推察されます。60歳未満の若年者でも、血小板数が15万未満であれば5年発癌率は6.9%あることを臨床医は十分に認識する必要があります。一方、60歳未満で血小板数が15万以上であれば、5年発癌率は0.8%であり、将来の次世代治療薬まで待つことも選択肢の一つになると考えます。このように、日常診療で簡単に入手できる4項目の組み合わせにより患者さんは7つのグループに分類され、5年以内の発癌率は最高で20.9%、最低で0%でした。モデル作成には使用しなかった600症例を当てはめて外部検証したところ、再現性は非常に良好でした(文献1)。
肝生検で肝線維化の程度を分析することは発癌リスクの評価に有用で、発癌率は、肝臓の線維化がF1であれば年率0.5%、F2では年率1.5%、F3では年率5%、F4では年率8%といわれています。しかし肝生検は侵襲を伴う検査のため反復して行うことは容易ではありません。このモデルは、簡単な血液検査結果のみを使用しているため、経過中に何回でも測定することができます。通院中の患者さんのデータを随時あてはめて、リアルタイムに発癌リスクを評価することができます。発癌リスクを把握することで、ウイルス排除を目標としたインターフェロン治療、あるいは発癌抑止を目標としたインターフェロン少量長期療法や肝庇護療法を勧める説得力のあるエビデンスとして利用できます。また個々の患者さんの発癌リスクに応じて、肝細胞癌スクリーニングの画像検査計画を立てる重要な情報になります。

図1 一般検査を用いた発癌リスクの予測モデル
C型慢性肝炎に対してペグインターフェロン・リバビリン併用療法を行うことで発癌を抑制できるかは重要な検討課題です。薬剤による発癌抑止の効果を検討するためには、もともとの発癌リスクを揃えて比較する必要があります。そこでペグインターフェロン・リバビリン併用療法を行ない5年以上経過観察した症例のデータを収集し、発癌予測モデルにあてはめ、発癌リスクが高い症例と低い症例に分類しました。それぞれについて、SVRが得られた症例と得られなかった症例の累積発癌率を比較したところ、発癌リスクの高い症例においては、SVRが得られれば5年発癌率は4.5%、SVRが得られなければ5年発癌率は9.5%であり、SVRにより発癌率が有意に抑制されることが示されました。一方、発癌リスクが低い症例では、SVRが得られた症例と得られなかった症例の5年発癌率はそれぞれ0.9%と1.8%であり、少なくとも5年の経過観察の範囲内では有意差はありませんでした。以上の結果からも、発癌リスクの高い症例においてこそ、抗ウイルス療法を行いHCV駆除することが発癌抑止において重要な意味を持つことが分かります(文献1)。

図2 インターフェロン治療による発癌抑止の効果
今後、C型慢性肝炎の治療は次世代の抗ウイルス薬とペグインターフェロン・リバビリンの3剤併用療法に移行してゆきますが、高齢者や貧血のある症例など一部の患者さんにおいては3剤併用療法を施行することが困難と予想されます。したがって2剤併用療法でも治癒可能な患者さんを同定し、ペグインターフェロン・リバビリンの2剤併用療法を選択肢として提示することも重要と考えます。Genotype 1型、高ウイルス量のC型慢性肝炎でペグインターフェロン・リバビリン併用療法を施行した症例のデータを収集し、保険の範囲内で測定できる一般的な検査のみで治療効果を予測するモデルを作成しました。SVRと関連する因子を多変量解析で検討したところ、年齢、性別、血小板数、ALT値、γ-GTP値が独立した治療効果関連因子でした。年齢と性別によるSVR率は、60歳以上の女性23%、60歳以上の男性48%、60歳未満の女性50%、60歳未満男性63%でした。
データマイニング解析では、年齢、AFP値、血小板数、γ-GTP値、性別が治療効果と関連する因子でした。その中でも最も上位の判別因子は年齢であり、50歳未満のSVR率は70%に対し、50歳以上では41%でした。50歳未満の中ではAFP値が第二判別因子であり、AFP値が8ng/ml未満のSVR率77%に対し、8ng/ml以上ではSVR率は44%でした。肝線維化のステージとAFP値には正の相関があるため、AFP値は肝線維化を反映するマーカーとして判別因子に選択されたと推察されます。50歳以上では第二判別因子は血小板数であり、血小板数が12万未満のSVR率は22%でした。血小板数12万以上の症例の中では、第三判別因子はγ-GTP値であり、40IU/L以上だとSVR率が低下しました。第四判別因子は性別であり、これらの因子の組み合わせにより症例は7つのグループに分類されました。SVR率は最高で77%、最低で22%でした。モデル作成には使用しなかった検証用症例をモデルに当てはめて解析したところ、再現性は非常に良好でした。また「データマイニング手法を用いた効果的な肝炎治療法に関する研究(研究代表者:八橋 弘先生)」研究班との共同研究で、国立病院機構のデータをあてはめた外部検証を行った結果でも、このモデルの再現性が非常に良好であることが確認されました。このモデルは、日常診療で簡単に入手可能な項目のみを使用しているため、外来やベッドサイドで個々の患者さんのデータをあてはめることが容易であり、一般臨床医がSVRを得られやすい症例をエビデンスに基づいて同定し、積極的に治療を勧めるためのツールとして利用できます。一方、このモデルで治療効果が得られにくいと判定される症例でも、それだけを根拠に治療から除外すべきではないことに注意を要します。また、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法ではSVRでは効果が得られにくくても、次世代の新規治療では治る可能性があること、あるいは発癌抑止を目標としたインターフェロン少量長期療法や肝庇護療法などの選択肢もあることを患者さんに伝えることが重要です(文献2)。

図3 一般検査を用いたペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果予測モデル
データマイニングの結果を臨床で使用するためには、専門的な知識は一切必要ありません。実際の患者さんのデータをこれらのモデルに当てはめて判別木をたどるだけで、ひとりひとりの患者さんについて、科学的エビデンスにもとづいて発癌のリスクと治療効果の予測をすることができます。
たとえば、60歳の男性で、Genotype1b型、HCV RNA が6.5 LogIU/mlの高ウイルス量の症例において臨床データをあてはめた結果を示します。血小板数が14.7万/μl、アルブミン値が3.6 g/dl、ASTが46 IU/L、γ-GTPが 34 IU/Lですので、発癌リスクの予測モデルに当てはめると、5年以内の発癌率が20.9%であることがわかります。このような具体的な発癌リスクを把握することで、医師、患者ともに肝細胞癌のスクリーニングのための画像検査の必要性、およびウイルス排除や発癌抑止を目標とした治療の必要性を認識できます。一方、治療効果予測モデルに当てはめると、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法を行えば72%の確率でSVRが得られることもわかります。SVRが得られれば発癌のリスクも低下するため、このように発癌リスクが高いことと、治療効果が期待できることを認識することで、積極的に治療を検討する根拠が得られます。
もし仮にペグインターフェロン・リバビリン併用療法では治療効果が得られにくいと判定された場合でも、それだけを根拠に治療から除外すべきではありません。あくまでも確率を参考にしたうえで、最終的には個々の患者さんの意思を確認して治療計画を立てる必要があります。また、今後登場する新規治療でSVRが得られる可能性が十分にあることも説明する必要があり、あるいはSVRを目指した治療以外にも、発癌抑止を目標としたインターフェロン少量長期療法や肝庇護療法などの選択肢があることを患者さんに伝える必要があります。

図4a 発癌リスク予測モデルの使い方

図4b 治療効果予測モデルの使い方
C型肝炎ウイルス遺伝子NS5A(ISDR)のアミノ酸変異数やCore領域のアミノ酸変異は、保険には収載されていない検査ですが、治療効果と密接に関連することが明らかとなっています。ISDRに2個以上の変異がある症例では変異数0-1個の症例と比較してSVR率が高く、またCoreの70番目のアミノ酸が野生型だと変異型と比較してSVR率が高いと報告されています。国内の多施設の精力的な研究により、この関連性は追試され、その再現性が確認されています。
そこで、これらのウイルス因子を含めてデータマイニング解析を行なったところSVRと最も関連する因子として、ISDR変異数、年齢、Core70のアミノ酸置換、LDL-コレステロール値、肝線維化が同定されました。最も上位の判別因子はISDRでした。ISDRに2個以上変異があるとSVR率が83%であるのに対し、変異数0-1では44%でした。第二判別因子は年齢であり、ISDR変異数が0-1で60歳以上のSVR率は31%でした。また60歳未満でもCore70のアミノ酸が変異型ではSVR率が36%と低率でした。これに対し、ISDR変異数0-1でも60歳未満でCore70が野生型であればSVR率は65%でした。ここまでの解析で、年齢、ISDR、Core70を組み合わせることにより、ISDR変異数2個以上の症例、あるいはISDR変異数が0-1個でも60歳未満でCore70が野生型の症例では、治療効果が得られやすいことがわかります。さらに第四判別因子はLDL-コレステロールであり、ISDR変異数が0-1個でも60歳未満でCore70が野生型でLDL-コレステロールが120mg/dl以上のSVR率は83%でした。第五判別因子は肝線維化であり、線維化がF0-1のSVR率が64%に対し、F2-4では32%でした。検証により、このモデルの再現性が確認できました。一般検査を用いたモデルでは、AFPや血小板などの肝線維化と関連した因子が上位の判別因子となりましたが、ウイルス因子を含むモデルでは、肝線維化は下位の因子になったことから、ISDRやCore遺伝子は、線維化よりも治療効果に対するインパクトが高いことが示唆されます(文献3)。

図5 C型肝炎ウイルス遺伝子解析を含むペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果予測モデル
治療中のHCV RNA陰性化時期はSVR率と密接に関連します。言い換えれば一旦陰性化したHCV RNAの再燃を最も確実に予測する因子はHCV RNA陰性化時期です。12週以内にHCV RNAが陰性化した症例では再燃は20-30%ですが、13週以降にHCV RNAが陰性化した症例では48週の標準治療では高率に再燃するため、72週間の延長治療が推奨されています。一方、12週以内にHCV RNAが陰性化した症例においては、特に50歳以上、血小板が13万以下か肝生検でF3の症例では9~12週にHCV RNAが陰性化した場合に72週投与を考慮するとガイドラインに記載されていますが、その他の症例に対する明確な治療指針はありません。
そこで12週以内にHCV RNAが陰性化した495症例からの再燃と関連する因子をデータマイニング解析で検討したところ、年齢と総リバビリン投与量が重要な因子として抽出されました。5~12週にHCVRNAが陰性化した症例のうち、年齢が60歳未満からの再燃率は22%に対し、60歳以上では41%であり、60歳未満の症例の中でも体重当たり3.0g以上のリバビリンを投与した症例からの再燃率は16%であったのに対し、3.0g未満では32%でした。60歳以上の高齢者でも同様に、体重当たり3.0g以上のリバビリンを投与した症例からの再燃率は26%であったのに対し、3.0g未満では52%でした。興味深いことに、3.0g以上のリバビリンを投与した症例からの再燃率は3.0g未満と比較しちょうど半分でした。12週以内にHCV RNAが消失した症例は極めて治りやすい症例ですので、確実にSVRを目指すべきです。再燃を抑止するためには、体重当たり3.0g以上の総リバビリン量を確保するように目標設定して、投与量及び治療期間を決める必要があります(文献4)。

図6 ペグインターフェロン・リバビリン併用療法で12週以内にHCVRNAが陰性化した症例からの再燃の予測モデル
ペグインターフェロン・リバビリン併用療法の副作用の中でも溶血性貧血の発現頻度は高く、安全性を確保するためには貧血の適切な予測と対策が重要です。高度貧血の予測には治療早期のヘモグロビン(Hb)値の減少が有用であることがすでに示されていましたが、データマイニング解析でも治療開始2週間後のHb減少は有意な貧血リスク因子でした。
データマイニング解析により治療中の高度貧血(Hb < 8.5g/dl)と関連する因子として同定されたのは、治療開始前のHb、クレアチニンクリアランス(Ccr)、および治療開始2週間後のHb減少でした。貧血リスク最も高いのは治療開始前のHbが14g/dl未満、Ccrが80 ml/min未満の症例で、次いでCcrが80 ml/min以上であるものの治療開始2週間後のHb減少が2.0 g/dl以上の症例でした。この2群では治療中の高度貧血(Hb < 8.5g/dl)の確率が11%以上でした。これに対し、治療開始前のHbが14g/dl以上で治療開始2週間後のHb減少が2.0 g/dl未満の症例では高度貧血の発現頻度はわずか0.4%でした。このように、治療開始前のHb 、Ccr、治療開始2週間後のHb減少量の組み合わせで高度貧血のリスクを早期に診断することができます(文献5)。

図7 ペグインターフェロン・リバビリン併用療法における貧血の予測モデル
C型慢性肝炎の患者さんに対してインターフェロン治療を検討する際には、治療を行わなかった場合に肝発癌するリスクの程度と、治療をした場合にSVRが得られる確率を勘案する必要があります。肝線維化の程度は発癌リスクと密接に関連しますが、日常診療の中で肝生検を反復して施行するのは困難です。発癌リスク予測モデルでは、簡単な血液検査の組み合わせで、5年以内の発癌リスクが0%から20%以上の症例を同定することができます。このモデルに個々の患者さんのデータをあてはめることにより、リアルタイムに発癌リスクを把握することができます。一方、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測においては、年齢と性別で判別できるSVR率は、高齢女性の25%から若年男性の60%程度までであり、年齢と性別のみでの治療効果予測には限界があります。一般検査を用いた予測モデルではSVR率70%以上の症例、ウイルス遺伝子検査を用いた予測モデルではSVR率80%以上の症例を同定することができます。
データマイニングの解析結果はフローチャート形式で示されるため、統計の知識がなくても外来やベッドサイドで簡単に臨床利用できることが最大の利点であり、また入手できる医療情報に応じて複数の予測モデルを作成したため、様々な実地診療の場で活用できると考えています。発癌リスク予測モデルを活用することで、日常診療の中で発癌リスクの程度を意識し、肝細胞癌のスクリーニング画像検査の計画や、インターフェロン治療の必要性の判断に役立てていただきたいと考えます。また入手できる臨床情報に応じて、一般検査のみで治療効果を予測するモデル、ウイルス遺伝子解析を含むモデルを使い分けていただき、エビデンスに基づくインフォームドコンセントの一助として活用していただきたいと考えます。
文献
2011年10月13日
近年、B型急性肝炎におけるジェノタイプAの増加が報告されている。ジェノタイプAの急性肝炎は成人の初感染で約10%が慢性化すると報告されており、現状の把握および対策が急務とされている。肝炎・免疫研究センターでは、全国の研究協力施設と共同で症例を収集し、ジェノタイプAの分布、慢性化率および慢性化要因を明らかにした。対象は、1982年から2010年に全国の研究協力施設で発生したB型急性肝炎1,088例である。
全国調査の結果、首都圏においてジェノタイプAは1990年代半ばより増加傾向にあり、2010年には約70%を占めていた。この傾向は地方部にも拡大しており、1990年代後半から増加傾向にあり、2010年には約60%を占めていた。ジェノタイプAとそれ以外のジェノタイプの臨床的な特徴を比較すると、ジェノタイプAにおいては年齢が若く(34.3±12.2歳 vs 38.4±14.8歳、P=0.0021)、男性の症例を多く認めた(94.2% vs 64.6%、P<0.0001)。また、ジェノタイプAでは発症時のHBeAgの陽性率が高く(87.5% vs 77.1%、P=0.041)、ピーク時のHBV-DNA量が高値であり(6.3±1.5 logコピー/mL vs 5.6±1.4 logコピー/mL、P=0.0002)、ALT値が低く(2132±1020 IU/L vs 2574±1715 IU/L、P=0.021)、%PTは高い傾向であった(74.6±22.6% vs 66.9±32.1%、P=0.028)。HBsAgの消失時期を比較すると、ジェノタイプAでは(6.2±7.6カ月 vs 3.2±3.9カ月、P<0.0001)と有意に延長しており、12カ月以上のHBsAg持続陽性を指標とした慢性化率では、ジェノタイプAは11.2%、それ以外では1.9%と、ジェノタイプAにおいて慢性化率が高いという結果であった。HIVとの共感染率を比較するとジェノタイプAでは10%に共感染しており、それ以外では1%であった。ジェノタイプAにおいては、ピーク時のALT低値、%PT高値であることから、肝炎の程度が比較的軽度にとどまる症例が多く、HBsAg消失までの期間が長期にわたり慢性化に関与する可能性が示唆された。
以上のように、ジェノタイプAの急性肝炎では約10%が慢性化するという結果であった。今後もB型急性肝炎の動向を把握し感染対策を考える上で、サーベイランスの継続が重要である。B型急性肝炎は感染症法により5類感染症に分類され、届け出が義務付けられている。しかし、今回の調査では実際に届出されたのは5-6%と非常に低率であった。当ホームページでは届出率改善のために、届出情報および届出票がダウンロードできる厚生労働省のサイトへのリンクを作成した。是非活用していただき、届出率の向上に貢献していただきたい。
2011年8月2日
B型肝炎訴訟については、裁判所の仲介の下、国と全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団との間で和解協議が進められておりましたが、平成23年6月28日に「基本合意書」が締結されました。
今回のB型肝炎訴訟において救済対象となるのは、B型肝炎ウイルスに持続感染されている方のうち、昭和23年から昭和63年までの集団予防接種等における注射器の連続使用により、満7歳になるまでの間に感染したと認定された方であり、集団予防接種等とB型肝炎ウイルス感染との因果関係の認定が必要となります。
そのため、今後、救済を希望される方々については、各地方裁判所に対して、国を相手とする訴訟を提起することが必要となりますが、そのための諸手続きに関する情報提供が
厚生労働省ホームページ上に公開されております。
この中には「B型肝炎訴訟の手引き」も掲載されておりますので、当該患者を診療されている先生方は参考にして下さい。
肝炎情報センター長
正木尚彦
2011年1月18日
「肝細胞癌治療のこれからの展開」を熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学教授 佐々木 裕先生におまとめいただきました。
肝細胞癌(以下、肝癌)に対する治療法の進歩により、肝切除術、経血管的治療法(TACE, TAI)、動注化学療法、放射線療法、局所療法、さらには肝移植が選択できる時代となった。しかしながらすでに進行した肝癌で見つかる場合も多く、また仮に肝切除やラジオ波凝固法(RFA)などの根治的治療を行っても、年率15-20%と高率に再発を認め、肝癌は依然として予後不良の癌腫の一つである。かかる状況において、肝発癌進展機構についてのさまざまな基礎的研究の成果が、分子標的治療、分化誘導療法、癌ワクチンという形で肝癌治療に反映されるようになった。

従来の治療法に反応しない肝癌を対象にした大規模無作為比較試験であるSHARP trialでは、分子標的治療薬ソラフィニブがプラセボ群に比べ生存期間を有意に延長することが報告され(Llovet JM, et al. N Engl J Med 2008;359:378)、その結果から本邦においても保険診療にてソラフィニブの投与が可能となった。

さらに2010年の肝細胞癌治療のアルゴリズムにおいても、TACEや肝動注化学療法不応例に対して肝機能がChild Aと保たれていれば、ソラフィニブの投与が推奨されている。

1990年代から始まったシグナル伝達研究の成果として、癌細胞の生物学的特性を担うシグナル伝達経路が明らかになり、その結果が分子標的治療薬の開発に結びついた。細胞増殖、血管新生あるいは細胞死抑制を担うシグナル伝達経路であるMAPK カスケードやPI3K カスケードでは、その最上流に位置する増殖因子の受容体にはTKで表すチロシンキナーゼ活性を有することが特徴的で、分子標的治療薬の多くはチロシンキナーゼ活性を抑制するように設計されている。

血管新生抑制、細胞増殖抑制、細胞死誘導、転移抑制などを担う様々な標的分子に対する抗体や薬剤が開発され、世界中で臨床治験が進行している。2011年1月現在では、肝癌に投与しうる薬剤はソラフィニブ(商品名 ネクサバール)のみである。

分子標的治療薬の効果を増強するために、さまざまな取り組みが行われている。例えばVertical blockadeとは、1つのシグナル伝達経路の異なるポイントを複数の薬剤で阻害するアプローチである。またHorizontal blockadeとは異なるシグナル伝達経路を異なる薬剤で阻害する試みであり、さらにSequential Therapiesとは薬剤耐性が出現した時点に同じシグナル伝達経路を他剤で阻害するという考え方である。抗がん剤との併用療法も臨床治験が始まっている。

薬剤耐性、細胞死、細胞周期や炎症を新たな標的とし、分子標的治療薬の開発や併用療法が行われている。

肝癌に対する分子標的治療は始まったばかりであり、解決するべきさまざまな課題がある。例えば治療効果の評価法が挙げられる。分子標的治療薬の多くは細胞増殖や血管新生を抑制することから、殺細胞効果を有する従来の抗がん剤とは画像上も異なる変化を呈している。RECIST基準をそのまま当てはめることが可能か、あるいは血流の変化を統合して評価するべきか、今後の検討が必要である。長期投与による安全性の確認、治療効果の予測を目指したバイオマーカーの特定も必須である。加えて肝発癌メカニズムの更なる解明と、より特異性の高い分子標的治療薬の開発も待ち望まれるところである。
根治治療後も、残存肝にはclone(癌の芽)が存在するために2次発癌がもたらされる。非環式レチノイドはこのような癌の芽を細胞死(アポトーシス)に導くか、あるいは“より悪性度の低い”ものに分化誘導する(Clonal deletion)。武藤らは非環式レチノイドによって根治治療後の2次肝発癌が抑制されること報告している(N Engl J Med 1996;334:1561, ibid.1999;340:1046)。

食物内の天然レチノイドはレチノイン酸に変化し、核内受容体(RXRα, RXR)に結合し、分化や細胞死に関連する遺伝子の発現を誘導する。正常細胞ではRXRαはユビキチン化されて分解されるが、癌細胞では前述のMAPKにより燐酸化を受けて分解されない上に、遺伝子発現を抑制する。非環式レチノイドは細胞内のレチノイン酸濃度を上昇させMAPKの活性も抑えるために、RXRαは機能を回復して分化や細胞死に関連する遺伝子を発現させる。


NIK333(Peretinoin)はプラセボに比べ根治的治療後の無再発生存率を有意に上昇させることが明らかになった。本成績を元に現在、厚生労働省へ保険承認の申請がなされており、認可が待ち望まれるところである。
癌細胞は免疫機構からの攻撃を回避できるような環境を自ら作り出している。即ち、癌細胞から分泌されるTGFβ、VEGF(血管新生因子)やPGE2などは、1) 免疫系にブレーキをかける制御性T細胞、γδT細胞、IL-17細胞などを活性化する、2) 免疫系の司令塔である樹状細胞(DC)を不活性化することで、癌細胞を攻撃する自然免疫系(NK細胞)や獲得免疫系(CTL)を抑制するなどのメカニズムで、免疫機構が癌細胞を攻撃しにくくしている。このような癌細胞にとって快適な環境を打破し、癌細胞のみを攻撃する細胞障害性T細胞(CTL)を増やすことで癌細胞を抑制しようとする治療戦略が、癌ワクチン療法である。


ウイルス感染細胞や癌細胞では、ウイルス蛋白質、癌細胞に特異的に発現している蛋白質の一部(ペプチド)がMHC class I(HLA分子)に乗っかり細胞表面に表出されると、それを認識した細胞障害性T細胞が攻撃する。
癌ワクチン療法では、癌細胞に特異的に発現している蛋白質(腫瘍抗原)の一部である腫瘍抗原ペプチドを担癌患者さんに接種する。その結果、皮下に存在する樹状細胞(DC)がそれを取り込み、所属リンパ節に遊走して癌細胞を攻撃する細胞障害性T細胞(CTL)を誘導する。最終的には、癌細胞特異的なCTLが癌組織を攻撃する。

癌ワクチン療法では、正常細胞には発現せず腫瘍特異的な蛋白質(腫瘍抗原)を標的とすることが重要である。その意味では、肝細胞癌に特異的に発現する遺伝子として同定されたGPC3(グリピカ3)は、癌ワクチン療法に適した標的分子である(Nakatsura T, et al. Biochem Biophys Res Commun 2003; 306:16)。

一方、腫瘍の新生血管を構成する内皮細胞も癌ワクチン療法の標的として注目されている。癌細胞ではHLAの発現低下がしばしば認められ、そのためにCTLが癌細胞を認識できなくなる。加えて癌組織は均一な癌細胞の集合ではなく(多様性がある)、すべての癌細胞に腫瘍抗原が発現しているとは限らない。一方、腫瘍血管の内皮細胞ではHLAの発現低下がなく、ほぼ均一な細胞であることから、癌ワクチン療法の標的には適している。
GPC-3や腫瘍血管を標的にした癌ワクチン療法については、一部の施設においてPhase I/IIの臨床試験で安全性や有効性が検討されている。将来的には癌ワクチン療法が肝癌治療の選択肢の一つとなることが予想される。
根治的治療後の再発(転移再発、多中心性再発)は年率15-20%と高頻度であり、予後の向上のための取り組みが急務である。分子標的治療薬、非環式レチノイド、癌ワクチン療法などがその意味で今後ますます重要視されるであろう。加えて、基礎疾患であるウイルス性肝疾患に対して積極的な治療は再発抑制につながることが期待される。


慢性肝疾患が肝癌の前癌状態であるが故に、原因の排除と炎症の鎮静化も不可欠である。例えば、B型慢性肝炎・肝硬変には、インターフェロン(IFN)や核酸アナログ投与による肝機能の改善や肝発癌の抑制効果が報告されている。一方、C型慢性肝疾患に対するIFN治療でも、肝機能の改善や肝発癌の抑制が認められている。
とりわけ発癌率が年率5-8%にものぼる肝硬変を対象に、IFNα2aの少量長期投与を行うことで(HALT-C study)、肝発癌が有意に抑えられることが2010年のアメリカ肝臓病学会で報告されたことは記憶に新しい。さらに肝硬変患者に対するBCAA酸製剤により、肝発癌が抑制されることもLotus試験として報告されている。
日本肝癌研究会の統計では、過去10年間にB型肝癌はほぼ横ばいではあるが、C型肝癌は減少傾向にある。1993年よりC型肝炎に対するインターフェロン治療が始まり、ペグインターフェロンやリバビリンの登場で治療効果が飛躍的に向上していることが理由と考えられる。一方、非B非C(NBNC)肝癌の占める割合が増加しているが、肥満、糖尿病、高脂血症など生活習慣病を基礎にしたNASHからの発癌が主因と推定される。


肝癌の治療法は近年、飛躍的に進歩しており、個数、大きさ、広がり(病期)や背景肝の機能、合併症の有無などを総合的に判断して治療が行われるようになった。また治療後の再発抑制を目指したさまざまなアプローチが行われるようになり、今後の肝癌治療の基本戦略の一つとなるであろう。一方、肝癌の前癌状態である慢性肝疾患に対する積極的な治療介入は、1.5次予防の観点から必要である。さらに生活習慣の改善は1次予防として非B非C肝癌の発癌予防に結びつくと考えられる。加えて肝発癌や再発を”より早期に”診断する、あるいは治療効果を客観的に評価する目的で、新たな機能画像診断法やバイオマーカーの確立は急務である。結論として、系統的な診断・治療体系の確立と個別化医療の具現化が、肝癌診療のこれから進むべき方向であろう。
本稿は、JDDW2010 日本肝臓学会大会(横浜)シンポジウム1 「肝細胞癌治療のこれからの展開」の基調講演を元に作成した。上述の分化誘導療法や癌ワクチン療法が近い将来、臨床に導入されることを期待しつつ、「今後の肝癌治療の方向性」を私なりにまとめた内容である。先生方のご理解の一助になれば幸いである。
上記内容のPDF版は以下をご覧ください。
「肝細胞癌治療のこれからの展開」(PDFファイル・850KB)
2009年11月27日
最近、C型慢性肝炎に対するインターフェロンの治療効果に関与するヒトの遺伝子多型 (SNPs) の発見が世界中で注目されており、今後のインターフェロン療法に大きな進歩をもたらす可能性が高い。
2009年9月に当肝炎・免疫研究センターと名古屋市立大学大学院の共同研究により、C型慢性肝炎に対するペグインターフェロン+リバビリンの標準療法に対する感受性に大きく関与するヒトのSNPsを発見し報告した (Tanaka Y, et al. Nat Genet 2009)。この報告と時期を同じくして、アメリカとオーストラリアの別々のグループからこのSNPsが同じようにインターフェロンの治療効果に関与するということが報告された (Ge D, et al. Nature 2009, Suppiah V, et al. Nat Genet 2009)。このSNPsは染色体19番のインターロイキン28B (IL28B) 近辺に存在し、インターフェロン感受性に大きく影響を及ぼすということが明らかとなった。
ヒトの遺伝子には個人差として約300個に1個の遺伝子の変異(これを遺伝子多型[SNPs]という)が存在し、このSNPsが様々な疾患や個々の薬剤に対する反応性の強弱や副作用に大きく関与し個体差を生み出すということが知られている。近年、Genome-Wide Association Study (GWAS)と呼ばれるヒトの遺伝子全体に配置された90万箇所(日本人では62万箇所)のSNPsを一括タイピングすることが可能になり、病態進展に多因子が関与すると想定されてきた2型糖尿病、脳血管障害などにおいて疾患に関与するSNPsが次々と報告されている。今回のインターフェロン感受性に関与するSNPsもGWASにより発見された結果である。我々の解析によると、このSNPsが変異型であるとインターフェロンの治療効果が著しく低下する。したがって、インターフェロン治療前にこのSNPsを測定し、インターフェロン治療無効と予測されたグループにおいては現行の治療を行ってもウイルスの排除は非常に難しいと判断される(成功率:5-10%程度)。このため、治療無効と予測されたグループには、現行の治療を見合わせ、新規の治療薬を待つといったテーラーメイド医療が可能となる。当センターではすでに前向き研究を開始しており、SNPsの判定によりペグインターフェロン+リバビリン療法の治療効果の予測が可能である。
また、アメリカのグループから発表された結果によると (Thomas D, et al. Nature 2009)、このSNPsは人種によって変異型の頻度が異なり、アジア系では変異型が少なく、逆にアフリカ系では変異型が多い。ヨーロッパ系ではほぼその中間の頻度となり、このSNPsの頻度がC型肝炎ウイルスの自然排除率と相関するということが報告されている。このSNPsの分布の違いが、これまで不明であった人種間でのインターフェロン感受性の異なる理由であると考えられる。
さらには、IL28B遺伝子はインターフェロンλ(ラムダ)を発現するということが明らかにされている。このSNPsがC型肝炎ウイルスの自然排除率に関与するということは、インターフェロンλの発現量の違いがウイルス排除に影響をおよぼす可能性を示唆する。したがって、将来的には、これまでのインターフェロンαやβの治療に加えてインターフェロンλを新規の治療薬として利用できる可能性があり、今後この遺伝子に関する話題がしばらくは世界中の肝臓学会等で大きくとりあげられそうである。
当肝炎・免疫研究センターでは、研究に参加していただく形でIFN治療効果が予測できるSNPs測定を順次受け付けております。ヒト遺伝子を取り扱いますので血清を送付していただいても測定することができません。当センターの研究費を使用し、無料で測定いたしますので、御希望の方には紹介状を持参していただき、国府台病院・消化器科を受診していただくよう御指導ください。
詳しい情報、お問い合わせは
肝炎・免疫研究センター 伊藤清顕まで
(TEL: 047-372-3501, FAX:047-375-4766, E-mail: kito@imcjk2.hosp.go.jp)
国府台病院 Home Page: http://www.imcjkohnodai.go.jp/index.html
2009年10月16日
平成20年度の薬害肝炎全国原告団・弁護団との大臣協議を受けて、厚生労働省に肝機能障害の評価に関する検討会が設置され、計7回に亘り検討された結果、「肝機能障害が重症化し、治療による症状の改善が見込めず回復困難になっているものについては身体障害の対象となる」という結論が出されました。これを受けて開催された疾病・障害認定審査会身体障害認定分科会において別添の認定基準(案)等が了承されたことから、平成22年度より認定基準に該当する場合に身体障害者手帳が交付されるとともに、肝臓移植とこれに伴う医療が公費負担医療制度である自立支援医療(更生医療・育成医療)の対象となる方向で準備が進められています。
対象者は、肝硬変の重症度分類として繁用されているChild-Pugh分類の合計点数10点以上(グレードCに該当)が3ヶ月以上継続していることが前提となりますが、加えて、日常生活活動の制限等に関する項目数等に応じて最も障害程度の重い1級から、最も軽症な4級までの4等級に分類されることになります。肝硬変の原因については、肝炎ウイルスに起因するもの以外も含まれることになっておりますが、特に生活習慣に依存するアルコールに起因するものについては、障害認定を行なう上で留意すること、すなわち、診断時において6ヶ月以上禁酒していることを確認する必要があります。さらに、肝臓移植とこれに伴う医療についても、自立支援医療の対象となり、医療費の自己負担額軽減が図られることになります。特に、移植後に抗免疫療法を必要とする期間は、これを実施しないと肝臓機能が廃絶する危険性があるため、1級として障害認定されることになります。尚、認定のために必要となる診断書・意見書は、身体障害者福祉法第15条指定医、あるいは指定自立支援医療機関が作成したものであることが必要とされており、今後順次、各都道府県、指定都市、中核市においてこれらの指定が行われる予定です。
肝炎情報センター 正木 尚彦
【参考資料】
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部発出(平成21年10月16日付け)全国自治体障害保健福祉主管課あて事務連絡 (PDFファイル・約2.0MB)